アジア 審査員
佐藤真
●審査員のことば
ドキュメンタリーは、世界を批判的に映し出す鏡である。社会変革の道具や政治的主張のための武器としてではなく、あくまでも冷徹に世界のあり方を見つめ続けていくことによる「映像表現による批評行為」である。これが、ドキュメンタリー作家としての私のささやかな指針である。したがってその批評性とは、“真実”などは存在しないこと、現実は既にフィクションを内包していることに鋭敏に反応せざるをえないだろう。たとえ無垢な現実の断片がフィルムに映し出されたところで、それを再構成することで映画は紛れもなくフィクションになる。ドキュメンタリーの批評性とは、そうやって再構成されたフィクションが、当の現実をどの様に批判的に映し出すかによって係わっていると私は考える。
佐藤真
1957年青森県弘前市に生まれ、東京で育つ。学生時代に訪れた水俣でドキュメンタリー映画と出会い、『無辜なる海』(香取直孝監督)の製作に参加。その自主上映の旅で新潟・阿賀野川に暮らす人々と出会い映画作りを決意し、スタッフ7人で3年暮らして『阿賀に生きる』(1992)を完成。本映画祭優秀賞をはじめ各賞を受賞。以降テレビ作品を何本か作るが、肝心の映画はいたって寡作である。『まひるのほし』(1998)は1999年の本映画祭「日本パノラマ」で上映。著書に『日常という名の鏡』、『ドキュメンタリー映画の地平』(凱風社)がある。 |
SELF AND OTHERS
-
日本/2000/日本語/カラー/16mm/53分
監督:佐藤真
撮影:田村正毅
編集:宮城重夫
録音:菊池信之
音楽:経麻朗
ナレーター:西島秀俊
製作:堀越謙三
製作会社・配給・提供:ユーロスペース
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町24-2-7F
Phone: 03-3461-0212 Fax: 03-3770-4179 URL: www.eurospace.co.jp
1983年にわずか36歳で夭逝した写真家、牛腸茂雄。牛腸の写真のまなざしは没後、しだいに味わいを増し、人々の心をとらえていった。牛腸の写真集「Self and Others」を中心に、彼のゆかりの地にたち、残された草稿や手紙と写真、肉声のコラージュによって、彼が写真表現を通して追求してきた〈もうひとつの身振り〉をとり込もうと試みる。写真家の評伝でも作家論でもない。牛腸の残した写真のそのまなざしに魅き込まれて、ただジーッと眺めるかのように、新しいイメージを私たちに提示する。
花子
Hanako-
日本/2001/日本語/カラー/35mm/58分
監督:佐藤真
編集:秦岳志
録音:弦巻裕
製作:山上徹二郎
製作会社・配給・提供:シグロ
〒164-0001 東京都中野区中野5-24-16 中野第2コーポ210号
Phone: 03-5343-3101 Fax: 03-5343-3102
E-mail: siglo@cine.co.jp URL: www.cine.co.jp
今村花子さん(22才)は京都府山崎町に住む重度の自閉症の女性である。週に一度、絵画教室に通い大胆なタッチの油絵を描いているが、もう一方で「食べ物アート」と母親の知左さんが命名した「作品」製作を毎日、夕食後に続けている。その日のおかずを畳やお盆の上に並べただけなのだが、その作品は母・知左さんによって記録され、何千枚もの写真として残されることになった。現在各地の展覧会でその写真群が展示され、プロの芸術家たちの注目を集め始めている。4人家族の今村家で日々くり返される、花子さんを中心とした日常を追うことで、“開かれた”家族像が見えてくる。そして誰が呼んだのか、「こだわりのアート」が今日も畳の上に続いていく。
●アジア千波万波|夢の中で|愛についての実話|移民者の心|僕たち|線路沿い|不幸せなのは一方だけじゃない|この冬|ジャリマリ|夢の王|友人、スー|パフォーマンス|母の家は入り江|アテフェと水|Blessed ―祝福―|MAYA|団地酒|異相|村の新しい一歩|別れ|パンジーと蔦|空色の故郷|居留―南の女|ニュースタイム|マージナル|種まき|塩素中毒|集集大怪獣|ミックス・フルーツ・バナナ・スプリット|セールス|落ちて行く凧|時の行進|昔むかし|HUMMADRUZ 〜大地の呼び声〜|水と消えゆく ●アジア千波万波招待作品|ミュージシャン|日蝕|騒音の向こう側|「流離島影」シリーズ|03:04|南之島、男之島|西の島|専売特許・釣魚島|サイレント・デルタ ●審査員|佐藤真|チャリダー・ウアバムルンジット ●アジア千波万波スペシャル|ノンプロフィット・フィルムの現在/新たな文脈を求めて |