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アジア千波万波

「アジア千波万波」2001に寄せて


 今回の「アジア千波万波」の傾向は?

 ――よく聞かれる、苦手な質問である。千波万波というだけあって、大小強弱いろいろな潮流が各地で起こっている現象をどうひと言で表せばいいのだ。

 そう思う一方で、アジア各地域でドキュメンタリーを作っている人たち、それぞれの孤立感を思う。さざなみは各地で起これど、大海原の中で各々が出遭う機会があまりに少ない。

 確かに、例えば1999年には台湾で大きなうねりが起きていた。台北で新しく始まった国際ドキュメンタリー祭や台南の国立芸大のドキュメンタリー専攻コースが後ろ盾となって、すぐれた若手作家たちが大勢台頭し、YIDFF '99 でも数多くの作品が紹介された。小川紳介賞は台湾の呉耀東監督『ハイウェイで泳ぐ』が受賞した。

 今回は韓国から、国際的で歴史的に広く深い視野をもち、女性監督の活躍が目立つ新作群が出現している。KOFIC(韓国フィルム・コミッション)の全面的な支援・助成による膨大な製作本数、充当な予算を任される国際映画祭の開催なしにはありえない現象だと思う。

 そして中国では呉文光(『四海我家』や『江湖』監督)が仕掛け人として、デジタルビデオでドキュメンタリーを製作する人たちを支援し、定期的な上映会を主催したりカルチャー誌での露出を後押ししている。その結果、テレビ局に所属しない若手アーティストによる伸びやかな個人映像製作が花開きつつある。

 バンコクではタイ劇映画の海外成功という明るい話題と並行するように、古いタイ映画の保存・修復を行なう組織(タイ映画基金)や実験映画や短編映画の製作・上映を支援するグループ(キック・ザ・マシンなど)が、映像づくりをめざす若い人たちに大きな希望を与えている。

 確かに今、アジア各地で、インディペンデントなドキュメンタリー製作がそれぞれの潮流を生み出している。バングラデシュ、パレスティナやシンガポールといった地域でも少数ながら素晴らしい作品が生まれ出ている。1991年から続いてきた本映画祭のアジア・プログラムが紹介してきたように、アジア各地に作り手はいる、おもしろいテーマはあるのだ。そしてようやくアジアでも、民間や公的な組織が資金面・制度面の支援を提供するなど、個人の製作のための環境づくり、地ならしの萌芽が見えはじめてきた。

 ところが千波万波が並行してうねるだけでなく、交わったりぶつかりあったりすることは? 個々のさざめきが絡み合い、より大きなうねりになっていくことは? 渦巻きが互いの波形に影響を与え合う、そんな運動が可能だろうか?

 山形国際ドキュメンタリー映画祭が、なるべく多くの監督を招待する理由も、作り手たちにお互いの作品を見て交流してほしいという考えからである。世界のドキュメンタリーを見る機会がアジア各地で増えれば、才能ある作家たちに刺激を与えるだけでなく、地元の観客が育ち、芽を出し始めた映像製作のサポート制度をより強固にしていくことになろう。しかも、言うまでもなく、おもしろい映画はひとりでも多くの人に見てもらわなくてはもったいない。

アジア千波万波コーディネーター 藤岡朝子


アジア千波万波夢の中で愛についての実話移民者の心僕たち線路沿い不幸せなのは一方だけじゃないこの冬ジャリマリ夢の王友人、スーパフォーマンス母の家は入り江アテフェと水Blessed ―祝福―MAYA団地酒異相村の新しい一歩別れパンジーと蔦空色の故郷居留―南の女ニュースタイムマージナル種まき塩素中毒集集大怪獣ミックス・フルーツ・バナナ・スプリットセールス落ちて行く凧時の行進昔むかしHUMMADRUZ 〜大地の呼び声〜水と消えゆく ●アジア千波万波招待作品ミュージシャン日蝕騒音の向こう側「流離島影」シリーズ03:04南之島、男之島西の島専売特許・釣魚島サイレント・デルタ ●審査員佐藤真チャリダー・ウアバムルンジット ●アジア千波万波スペシャルノンプロフィット・フィルムの現在/新たな文脈を求めて