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祈祷師
The Spirit Doesn't Come Anymore
ネパール/1997/チベット語/カラー/ビデオ/38分

監督・撮影:ツェリン・リータル 編集:ムラリー・グラッパー 
音楽:ネルン・ツェリン・トプテン 
出演:パオ・ワンチュク、ツィンド(パオの妻)、カルマ(パオの長男)
製作:シェラップ・ラワン、ツェリン・リータル
製作会社:シェリー・フィルムズ
提供:福岡市総合図書館
〒814-0001福岡市早良区百道浜3-7-1 Phone: 092-852-0608 / Fax: 092-852-0609


ツェリン・リータル
Tsering Rhitar


1968年、ネパールでシェルパの父とチベット人の母の間に生まれる。インド・デリーのジャミーア・ミッリーア・イスラーミーアで映画製作を学ぶ。1994年には1年間インドのダルムサラでダライ・ラマとチベット亡命政府機関の撮影を行なう。本作はチベットを脱出する尼僧について描いた『Tears of Torture』(94)、『Shower of Virtue and Goodness』(96)に続くドキュメンタリー第3作。96年には短編のコメディ『The Marriage Proposal』も手掛けている。99年には長編劇映画が完成予定である。

ネパール辺境のチベット難民の集落で、伝統と現代にはさまれた祈祷師とその息子の葛藤を、息子の幼なじみが描く。祈祷を通 して体内の石を取り除く治療をほどこし、生計をたてる老父と、不出来をののしられ育った気弱な息子のすれ違いに、故郷をなくした放浪者の心の傷を見る。


【監督のことば】

パオとその家族は子どものころから個人的に知っていた。私の母もチベット人だったので、カトマンドゥに引っ越すまでは彼らと同じ難民キャンプに住み、私はカルマ(パオの息子)と同い年の幼なじみだった。そのため、映画製作にあたって彼らとのコミュニケーションはごく自然に行なえた。
この作品は非常に個人的なもので、ある意味で、パオ・ワンチュクが特殊な家業をつぐユニークな人物だと私は言える。チベットで2千年以上も引き継がれてきたこの呪術というものについて、価値判断をくだす立場にはまだないが、彼の治癒術は肉体的というよりむしろ心理的な効力を発揮するものだと思う。多くの人々がパオの力を信じている。彼は祈祷を頼みやすく、(信心深い人にとっては)霊性の高さも十分で、しかも患者とのコミュニケーションがうまい。映画製作の過程で、パオの患者に大勢出会ったが、彼の治療のあとで体調が良くなったとほとんどの人が感じていた。一方、(痛みが消えたと認めながらも)パオが取ったはずの結石が腎臓や胆嚢に残っているのがレントゲンに写 っていたと言う者も大勢いた。彼の伝統には何ら科学的根拠が見られないし、これが仏教だとも言えないと思う。
一方で、パオ・ワンチュクを、マスコミによってロマンチックでエキゾチックなものとして取りあげられ、搾取されている亡命チベット文化の腐敗と商業化の象徴だと、私は見ている。精神性が高く、いつも微笑んでおり、常に寛容で、悩みの全くない素朴な人々という、西洋人がもつチベット人のステレオタイプを、この映画を通 してこわそうとした。この映画に登場する祈祷師は、聖人でも寛容な人間でもない。(ましてや『X-ファイル』に出てくる異星人でもなく)むしろ人間としてのあらゆる愚かさを携えたごくごく普通 の人間だ。周囲の人間関係で何ら特別な地位も与えられず、逆に性格の悪さや妻子に対する態度を理由に、彼を嫌う人は実際には多いのである。
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