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審査員
楊荔鈉(ヤン・リーナー)


●審査員のことば

 今回再び『老人』が上映されるまで、20年という年月が経ちました。撮影対象となった老人たちも、地下に眠るようになって随分経ちます。でも映画の良いところは、いつでも集えることです。きっと彼らも少しのあいだ目を覚まし、この上映の現場を見てくれることでしょう。世の中の変化を感じつつ、私たちが共に過ごしたあの春夏秋冬を見てくれるに違いありません。私にとって、彼らは今でも生き続けているのです。ただ寝ている時間が私より長くなっただけで。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭は、私が若かったときの出発点です。中年になってまた戻って来ました。その間、もっと優れた作品を私は撮れていません。もし私にあと20年の時間があるのなら、もう無駄にはしません。山形国際ドキュメンタリー映画祭が待っていてくれれば、私も早く進歩できると思います。

 ドキュメンタリーを撮る前、私は舞台役者でした。役者には受け身になる辛いときがあります。特に、芸術表現がある種の宣伝に利用されるときは、とてもがっかりします。私がカメラを手に、舞台の中央から市井の人の中へ入ったとき、自分に相応しい場所を見つけた気がしました。浮ついた華やかさが取れて、真実の美しさと素朴な感情が見えてきたのです。主役も脇役もない空間、平等で平穏なことがこんなにも面白い。映画の中の人々や、様々な出来事が、私にいろんなことを教えてくれました。生まれてくることや、病んで死にゆくことも。私と撮影対象も、通常の関係を越えて、互いの生命力を重ね合わせるようになりました。

 私のドキュメンタリーは、どれもとても身近なお話です。題材を探しに遠くへ行ったりはしません。老人は私の隣人だし、ほかにも家の近所の公園で踊る人だったり、ふるさとのお寺だったり、すぐ近くの少年だったり。いま撮っているのは、私の娘と彼女の乗馬友達です。私は生活が与えてくれる美や力を信じています。日常の中から普段と違うことを探すのが、私の撮影の特徴であり、関心を持っていることです。私と撮影対象とは、いつも一目惚れです。映画というデートの中で、どちらが先に待ち合わせ場所に来て相手を待つ側だろう、などとよく考えたりしますが、私は時間が経つにつれて情が深くなってしまうタイプです。近年は劇映画も撮っていて、劇映画とドキュメンタリーの間でバランスを取ろうと試みています。私にとってはどちらも映画ですが、劇映画は虚栄だし、よりシステマチックな訓練を要するので、ドキュメンタリーを創作している自分のほうが好きみたいです。


楊荔鈉(ヤン・リーナー)

舞踊家と舞台俳優の経験があり、ジャ・ジャンクーの『プラットホーム』にも出演。『老人』(1999)は、シネマ・デュ・レエルで審査員賞、YIDFF '99でアジア千波万波奨励賞、DOKライプツィヒで金賞・観客賞受賞。ドキュメンタリー映画の『家庭録像帯』(2002)、『一起跳舞』(2007)、『我的隣居説鬼子』(2008)、『老安』(2008)、『野草』(2009)は、海外の多くの映画祭で上映された。劇映画女性三部作は現在2本が完成しており、『春夢』(2013)は、すでに多くの海外映画祭で上映、日本ではSKIPシティ国際Dシネマ映画祭などでも上映されている。



老人

Old Men
老頭

中国/1999/中国語/カラー/デジタル・ファイル(原版:SD)/94分

監督、撮影、編集、製作:楊天乙(ヤン・ティエンイー)
製作会社、提供:天乙紀録工作室(Tian Yi Record and Working Studio)

毎日同じ街角に集まる地元の老人たちを2年間かけて撮影。カメラはお年寄りたちのゆっくりした体のリズムを捉え、おしゃべりや苦情を聴く。埃っぽい北京郊外の住宅街の四季のなか、監督は初の作品で、老人たちを親愛を込めて見つめる。