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[レバノン]

愛を超えて、思いを胸に

A Feeling Greater Than Love

- レバノン/2017/アラビア語/カラー、モノクロ/デジタル・ファイル/93分

監督、脚本:マリー・ジルマーノス・サーバ
撮影:カラム・グセイン、マリー・ジルマーノス・サーバ、ジアード・シャッフード
編集:ルーリ・セイフ
音響:ターレク・ランティーシー
エグゼクティブ・プロデューサー:ラシャ・サルティー
製作:マリー・ジルマーノス・サーバ、ラーラ・ジルマーノス
配給:Tricontinental Media
www.afeelinggreaterthanlove.com

1975年の内戦以後の中東の歴史に埋もれてしまった、70年代初頭のレバノンの工場労働者やタバコ農家らによるスト、労働/政治運動。大きな社会変革のうねりの渦中にいた当時の若い男女の活動家らが集まり、異論反論入り混ざり、生き生きと回想する。民衆蜂起と内戦前夜を暗示するクリスティヤーン・カーズィーの作品、その時代が写り込んでいる『赤軍 ― PFLP 世界戦争宣言』など多彩なフッテージも引きながら、民衆革命を掘り起こし、息を吹き込む。(WM)



【監督のことば】2011年7月11日、私は後にこの映画の主人公の一人となるナディーヌからメールを受け取った。彼女が語る1972年の反乱や、それによって始まったかもしれない革命についての話に耳を傾けていると、私と同世代の人たちの思いや、“アラブの春”を望む私たちの願いを代弁しているように聞こえてきた。

 私は、頭の中からなかなか消えない同じ疑問をしばらく抱えていた。過去と現在について、そしてレバノン、中東、世界について。この革命に可能性があると思わせた出来事の背景は何だったのか。そして革命はなぜ失敗したのか。私たちは民衆運動という同じ形の行動を繰り返しているだけなのだろうか。それによって、私たちは正義や平等に少しでも近づいているのだろうか。今日、これほどに変革と連帯を渇望している気持ちをいったいどう扱ったらいいのだろう。

 私がリサーチを始めた2010年は、相対的に無気力に覆われていた。南米で農場労働者のオーガナイザーとして、また地域コミュニティのテレビ番組プロデューサーとして働いた後にレバノンに戻った私は、比較してみると、なぜ私たちアラブ世界の社会運動が色あせて見えるのだろうかと考えていた。過去を振り返ってみると、ガンドゥール社の工場労働者やタバコ農園の農民たちのストライキが1972年から73年にかけて起こり、それは国が内戦で分断されるちょうど前の時期で、レバノンで起こり得た革命の可能性とレバノン社会の統一の幕開けとして人々の記憶に結びつけられている。レバノン警察の手にかかって命を落としたファーティマという少女がいたが、彼女の死は世論を喚起した。この少女の足跡をたどりながら、私は自分の疑問に対する答えを探していた。

 この映画はまるで夢の中のように、主要な登場人物の記憶を通して、彼らの政治的関与や幻滅といった個人的な物語が語られる。それは過去と、現代の日常に残るその痕跡の探求だ。


マリー・ジルマーノス・サーバ

隠された場所や、疑う余地のないような明らかな場所に、新たな変革の可能性を探して、アラブ世界やその外の世界の知られざる物語を探索し、映像作品やその他のメディアで表現をする地理学者。ハーバード大学で社会学を学んだ後、カリフォルニア大学バークレー校で地理学の修士号を取得。2014−15年には、アシュカル・アルワン・レバノン現代芸術協会のホーム・ワークスペース・プログラムに参加した。初の長編となる本作は、2017年ベルリン国際映画祭において FIPRESCI(国際批評家連盟)賞を受賞した。