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インターナショナル・コンペティション



審査員
ホン・ヒョンスク ジュナの惑星
サビーヌ・ランスラン 私たちの狂気
オサーマ・モハンメド ステップ・バイ・ステップ | 犠牲
デボラ・ストラトマン ヴェヴェ(バーバラのために) | オア・ザ・ランド
諏訪敦彦 a letter from hiroshima

作品解説:阿部宏慈(AK)、濱治佳(HH)、畑あゆみ(HA)、飯野昭司(IS)、稲田隆紀(IT)、加藤初代(KH)、
衣笠真二郎(KS)、日下部克喜(KK)、田中晋平(TS)、吉田未和(YM)、結城秀勇(YH)



移動しつづける

 今年もインターナショナル・コンペティションの15作品が無事出揃った。例年のごとく地域もテーマもスタイルもさまざまな顔触れである。前回から引き続き新作が入ったフレデリック・ワイズマン、同じく山形ではおなじみ米国のベテラン作家トラヴィス・ウィルカーソンによる再び身内を主題とした作品、そしてインドのアナンド・パトワルダンの新作は22年ぶりのノミネートだが、その舌鋒の鋭さは相変わらずだ。山形おなじみといえば中国の二人、王兵(ワン・ビン)の8時間を超える再びの大作、そしてアジア千波万波常連となっていた章梦奇(ジャン・モンチー)による連作の最新作も、今回インターナショナル・コンペティションでの上映となる。日本の牧野貴による唯一無二の映像は、これらベテラン勢にあってひときわ異彩を放っている。

 山形初上映の監督も多い。この2019年の高度にグローバル化された世界にあって、人間の移民・移住にまつわる苦難や悲劇はあらゆる場所で起きている。愛する者との別れの痛みを描くインドのエクタ・ミッタルや、欧州を目指すボスニアの姉妹の姿を描くクローディア・マルシャル、自らの亡命の旅路を記録したハサン・ファジリ、そして祖母をモチーフに戦争と離別の哀しみを語るノ・ヨンソンは、それぞれにまったく異なる映画技法でそうした今日的主題に迫っている。貧困や抑圧、暴力を前に、そこからの離脱、解放を目指し前進する若者や女性たちの姿が印象的なアンナ・イボーンやマレン・ビニャヨ、エリザ・カパイの新作も、今まさに見られるべき作品だろう。また一方で、安易な離脱=忘却を阻み、忘れられかけている権力者の犯罪を声と視線の「移動」で蘇らせるテレサ・アレドンドとカルロス・バスケス・メンデス、類稀なる才能を持ったカメラマンの視線の「移動」を追体験できるクレア・パイマンの作品はまた、映画という近代メディアのもつ普遍的な価値を教えてくれる。

 28年前、第2回のYIDFF '91で審査委員長を務めた批評家ジャン・ドゥーシェは、フランス語の「移動」(déplacé / déplacément)という言葉を例にとり、映画作家の視点、そして彼ら彼女らがカメラを通してどこまで「非順応、傲慢、無遠慮」に「移動」したのかを見ることの重要性について語っている。作家自身が、自らの作品制作を通じて、元いた場所からいかに遠くまで旅をしたのか。どのように既知の認識や無意識の拘束から解き放たれ、不寛容や忖度に抗い、今ある世界を挑発するのか。今回の15本もまさにこうした不穏極まりない作品ばかりである。見にこられる皆さんにも、ぜひこの新たな知と感性との出会いによる越境と移動を体験し、多彩な映画の旅を楽しんでいただきたいと願っている。

 映画祭第1回から続くこのインターナショナル・コンペティション部門は、今年で16回を数える。初回は200数本だった応募作品数も、今回1,400本を超えた。総本数で例年の3割増しとなったが、今年から視聴用映像のオンライン送付を解禁したゆえもあるだろう。日々次々に送られてくる作品を前に圧倒されながら、今年も過酷な選考作業を黙々とこなしてくださった予備選考委員、力を貸してくださった選考アドバイザー諸氏に、まずは御礼を申し上げたい。そして、5名の国際審査員の皆様には、映画祭の5日間休みなく、朝から晩までみっちりと8時間超の大作を含む作品群を観続け、あげく賞を決定するという難しい仕事をお引き受けいただいたことに、ひとえに感謝したい。目の肥えたこの山形の観客とともに、ぜひあらゆる境界を越え、15組の作家の旅路にのびのびとお付き合いいただきたいと思う。

 最後に、このプログラムにご応募いただいた応募者の皆様、そして運営を準備から支えてくださったすべての皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

畑あゆみ(プログラム・コーディネーター)