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[レバノン]

消された存在、__立ち上る不在

Erased,___Ascent of the Invisible

- レバノン/2018/アラビア語、英語/カラー、モノクロ/DCP/76分

監督、脚本:ガッサーン・ハルワーニ
撮影:ガッサーン・ハルワーニ、インカ・デヴィッツ、カリーン・ドゥーミート、ジョアーン・シャーケル
編集:ヴァルタン・アヴァキアン
録音:インカ・デヴィッツ、ガッサーン・ハルワーニ
音響:トーニ・ジターニ、ラーミ・サッバーグ
配給:mec film
www.mecfilm.de

行方不明者の顔写真、死亡扱いにされない住民票、埋め立てられた集団墓地……。真実究明の動きに忖度が加えられ、犯罪の実態が上塗りされる行為に抗うかのように、幾重にもポスターが貼られた街中の壁をカッターでめくり、行方不明者を掘り起こす。35年前、レバノン内戦時に誘拐されたある男の面影を手掛かりに、内戦後は名もない死者として片付けられてしまった多数の行方不明者という不在の個を掬い、ドローイングによってアニマを吹き込む。(WM)



【監督のことば】35年前、知人の男がさらわれるのを目撃した。

 以来、彼の行方は分かっていない。10年前、街路を歩いていた私は彼の顔を目端に捉えたが、それが本当に彼だったのか、確信は持てなかった。

 顔の一部は剥がれてしまっていたが、その特徴は例の事件から変わらぬままだった。

 しかし、何かが違っていたのだ――まるで彼が別人となってしまったかのように。


ガッサーン・ハルワーニ

ベイルートに在住し、2005年に短編アニメーション映画『Jibraltar』を制作した後、レバノンをはじめアラブ地域の映画作家、劇作家、現代アーティスト、出版社やミュージシャンとの共同制作を主たる活動の場とする。主な参加作品に、ハリール・ジョレイジュとジョアナ・ハッジトマスによる長編ドキュメンタリー『Lebanese Rocket Society』(エンディングのショートアニメを制作)などがあり、レバノン人劇作家・アーティストのラビア・ムルエといくつかの演劇やインスタレーションで長期にわたって共作したほか、パレスティナの音楽家タメル・アブ・ガザラのMVアニメーション「Takhabot」も手掛けている。

 本作は、自身の映画としては2作目にあたり、初の長編である。芸術活動の傍ら、公共と政治に関わる領域も重視する彼は、現在、レバノンの強制失踪者をめぐる国立アーカイヴの創設に携わりつつ、同時並行的に、土地と所有財産の規制に関するレバノン国家基本計画にまつわる映画のためのリサーチにも参加している。