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アジア千波万波
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  • 審査員
  • 瀬々敬久
  • 陳俊志(ミッキー・チェン)
  • [フランス、韓国]

    朝が来て終わる夜を見たことがない

    We've never seen a night which has finished by reaching a day
    On a jamais vu de nuit qui ne finisse par atteindre le jour

    - フランス、韓国/2010/韓国語、フランス語/カラー/ Blu-ray (SD)/41分

    監督、撮影、編集、音響、提供:イ・ジュヒョン
    助監督:ソン・ソンギョン

    「ナヌムの家」に暮らすひとりの老女と出会った監督。アルジェリア戦争中の「売春婦」の戯曲と、第二次大戦中、旧日本軍によって「慰安婦」にされたハルモニの語りが時空を超えて出会い、暗闇に響く。フランスで学び本作を制作した監督は、ハルモニとの何気ない会話や、祖母と孫のようなやりとりを通して、日本と韓国だけではない壮大な植民地の歴史のうねりをも、確信をもって静かに突きつける。老女と監督の親密なカメラの距離の狭間に、侵略の記憶が刻まれる。



    - 【監督のことば】朝鮮戦争が遠い昔となった今でも、傷つき、ぼろぼろになった老女の耐え難い傷口はまだ大きく開かれたままである。それはいわゆる社会の良識が、このハルモニに“他者”だの“損なわれた者”だの“適応不能”だのというレッテルを貼ってきたためである。

     “従軍慰安婦”を描いたドキュメンタリー映画のほとんどが、1人ひとりの女性の傷に極私的なレベルで焦点を当てるというよりは、集団としての彼女らを捉えている。

     女性たちが実在の人物としてではなく、単なる歴史の枠組の中だけで語られることに疑問を抱いてしまう。だから、この作品はひとりの女性個人の生、すなわちハルモニが経験した悲劇的な歴史の中で傷を受けた人生を、至近距離から描くことにした。

     果たして自分は彼女にとっての仲間なのか、あるいは単なる侵入者にすぎないのか? 撮影中悩まされ続けたこの問いの答えは見つからなかった。

     希望に満ちた言葉を発しても向かう先は絶望の淵だった。私は、ハルモニが深く悲しい闇の中から出られずにいると気付いた。彼女の感情や気持ちの本質をとらえるため、作品の中では闇と明るさを対比させ、映像のない音声だけの場面もある。

     この手法によって、記憶と現実、また喪失と希望の間で引き裂かれる彼女の痛みと悲しみを表現したかったのである。


    - イ・ジュヒョン

    韓国で美術を専攻した後、短編アニメーションやビデオ作品を制作している。2004年から7年間、フランスで映画とドキュメンタリーを学び、ある特定のジャンルに焦点を絞らず、アートや映画に関する様々な知識と経験を深めてきた。これまで3本の短編アニメーションを制作。初のドキュメンタリー作品である本作は数多くの映画祭で上映された。 現在は、ヒロシマ・ナガサキの韓国人被爆者二世たちの苦しみやその遺伝性疾患をテーマにしたドキュメンタリーとアニメーションを融合した実験的な作品に取り組んでいる。