イ・ジュヒョン 監督インタビュー
暗闇に浮き上がるトラウマ
Q: どのようなきっかけで、この作品を作ろうと思ったのでしょう?
LJ: 以前私は短編のアニメーションを撮っていました。私が撮っていた作品のテーマは個人でした。中でも外的な理由によって、自分の意思とは関係ないところで何らかの犠牲になった人たちをテーマにした作品を作っていました。その中で「慰安婦」の問題はいつか取り上げたいと思うようになりました。
Q: この作品のハルモニとの出会いについて教えてください。
LJ: 撮り始めようと思った当時はフランスにいて、知り合うにも限界がありました。それでまず資料調査をしました。インターネットや本を見て、名前やハルモニがどういう経験をしたのかを知りました。そういう資料を見ながら、間接的なコミュニケーションを計りました。写真を見ながら「このハルモニはどういう性格だろう?」というのを自分の中で想像してみました。ナヌムの家に行った時、勉強していったため、ほとんどのハルモニを知っていましたが、唯一この作品に出演してるファソンハルモニだけ知りませんでした。なぜかというと、彼女はまだ入ってから2カ月しかたっていなかったからです。まだ他のハルモニとも馴染めなくて、ご飯もあまり食べられない状態でした。私はナヌムの家に約2カ月いましたが、最初の2週間は一切カメラを持ちませんでした。その間一緒に食事をしたり、掃除をしたり親しくなる時間をもちました。ただハルモニはすごく内向的な性格で、外で遊ばないでずっと部屋に閉じこもっていました。
Q: 作品の中でハルモニが「男のひとを人間と思えない」ということをおっしゃっていましたが、その言葉を監督はどのように受け止めたのでしょうか?
LJ: 「僕に言ってるのではないか」という気がしました。私を含めた男性に言ってるような気がして、とても気まずい思いをしました。私は撮る側なので、ハルモニの部屋に入らないといけないのですが、最初に入るときにブラックの画面の中にドアの音がして暗闇に入って行く感じで始まるのですが、作品自体は最後にハルモニが「未だに男のひとを気持ち悪いと思っている」と言ってるのを聞いて私は何も言えず、ため息で作品は終っています。私は、ハルモニの友だちでもあり、けれども男性ということで敵でもある。ハルモニにとって私はそういうあいまいな存在だったのではないかと思います。
Q: ブラックにハルモニの声だけという場面を多用したのには、どういう意図があったのですか?
LJ: 映画祭に行ったときに、観客から質問を受けました。20分間映像がないというのはどういうことなのかと。私は今回ハルモニの声がひじょうに大きなことを語っていると思ったので、その声だけで十分ではないかと思いました。逆に映像を入れてイメージを付けない方がいいと思い、暗闇を活かすことにしました。この作品のタイトル『朝が来て終わる夜を見たことがない』はアルジェリアの娼婦だった女性の言葉です。夜というのは昼と昼の間に挟まっています。この作品は記憶を辿っていく物語です。記憶が昼だとするとやはりその中にどうしても闇が入っています。いつも希望を語っているつもりなんだけれども、絶望という夜があります。暗闇空間に入った時、最初は目が慣れていないのでまったく見えないのですが、少しずつ見えてくる、そのような感じも表現してみたいと思いました。一瞬暗闇かと思うんですが、浮かび上がるようにしてそこにトラウマがある。真っ暗で何もないと思っていた空間に、実はトラウマがあったということを表現できるのではないかと思いました。
(採録・構成:木室志穂)
インタビュアー:木室志穂、大沼文香/通訳:根本理恵
写真撮影:二瓶知美/ビデオ撮影:広谷基子/2011-10-08