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アジア千波万波



アジア千波万波 特別招待作品

アジア千波万波 審査員
瀬々敬久
陳俊志(ミッキー・チェン)

あなたは何者か?

 たった1週間の映画祭。7月下旬に選考が終わり、アジア千波万波のラインアップを決定し、本プログラムに応募してくださった人たちに連絡を取り始めてから、随分と時間がたった。作り手それぞれのプロフィールを読めば、その人と映画の背景は、ある程度まで推測はできても、実際にやり取りを始めると、色々な発見がある。対24人とのコミュニケーションの始まりだ。1回1回のやりとりにおいて、あらゆる場所へとドアが開け放たれる。どこでもドアのように。次はどこへ連れて行ってくれるのだろうと、ワクワクする。

 メールやスカイプのやりとりが主体となった今でも、やはり、人間同士のコミュニケーションであることに変わりはなく、とても難しい。言葉の問題も手伝って、原語の分かる方々を通じて電話をしたり、メールを書いてもらったり。カタログ編集、字幕制作、招聘アレンジ。ありとあらゆる人を巻き込んで、初めて成立する。到底私ひとりでは成立しないコミュニケーションだ。お互いの気持ちを推測しながら、時には、相手がメールを書いている姿を妄想しながら、送信されてくる言葉に一喜一憂しながら。そう、何かに似ている。まさに恋愛だ。

 映画を作る行為そのものもしかり。

 作り手と被写体との対話。消されゆく物/者/ モノ/記憶をつかみ取る行動。個人の体験から、大きな歴史を描く。過去と現在をつなげ、ある瞬間をとどめる。静かに見守るという決断。現状に反旗を翻す。地理や時代、世代を超えてつながろうとあがく。「映画」を作るという強い意志、ドキュメンタリー映画への果敢な挑戦。ストーリーテリングの切れ間からこぼれ落ちる作り手の愛着が感じられる幸せな瞬間。さまざまなコミュニケーションを映画制作によって誘発し、「あなたは何者か」と心の奥深くまで入ってくる。

 作り手の忍耐強い愛の結晶である映画と多くの方々の愛情に支えられ、これらの24作品は山形映画祭で上映されるに至った。山形で映画と、そして作り手たちと出会って生まれる星の数ほどの瞬き。果たして、どんな愛を今回のアジア千波万波から、あなたは感じとるだろうか。

 あなたは何者か。それは、作り手たちにとって、避けては通れない問いであり、それを問い続ける冒険が、アジア千波万波の映画なのだと感じる。そこには、私を含めて、作品に接する観客にも、それぞれの映画は投げかけている。今度は私たちがその冒険に巻き込まれる番だ。例え、ほろ苦くても、片思いになったとしても、出会ってしまったのだからしょうがない。そんな静かな恋が芽生える映画祭が、今年も始まる。

若井真木子