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アジア千波万波
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  • 審査員
  • 瀬々敬久
  • 陳俊志(ミッキー・チェン)
  • [韓国、デンマーク、アメリカ、中国]

    女と孤児と虎

    The Woman, the Orphan, and the Tiger

    - 韓国、デンマーク、アメリカ、中国/2010/英語、デンマーク語、韓国語/カラー、モノクロ/Blu-ray(HD)/76分

    監督、撮影、編集、製作:ジェーン・ジン・カイスン、ガストン・ソンディン・クン
    録音:シム・ヒュンジュン、ジェーン・ジン・カイスン、ガストン・ソンディン・クン
    提供:『女と孤児と虎』日本上映実行委員会
    womanorphantiger.blog55.fc2.com

    日本による植民地支配の時代から、アメリカ覇権下にある現在の韓国までの歴史を、主にアーカイヴ映像と現在を生きるコリアン・ディアスポラの女性たちの言葉で構築する思索的な試み。旧日本軍に「慰安婦」にされた女たち、韓国駐留米軍兵士相手のセックスワーカーの女たち、朝鮮戦争以降、欧米に養子に出された多くの子どもたち。彼女たちの生の点と点を結ぶことで、封じ込められていた個々の声と歴史を通じて暴力にさらされ続ける性が、その姿を現す。



    【監督のことば】本作は3世代に渡る女性たちの物語を結びつけながら、ある系譜を創造する。まず、第一次大戦と第二次大戦の間にアジアの様々な国から集められ日本軍による性的奴隷制に曝された20万人におよぶ元慰安婦たち。次に、1950年代以降の韓国の米軍基地周辺で性産業労働に従事したおよそ100万人におよぶ女性たち。そして50年代から現在に至るまで、韓国から西洋へと養子に出された20万人の子どもたち。

     この映画が構築する系譜とは、民族的同一性や生物学的またはエスニックな絆に基づいて作られるものではなく、戦略的かつ政治的なそれである。この作品は、まず複数の世代の女性たちが、類似した抑圧的制度の影響を被った様子に目を向け、同時に複数の主体性や、課されている異なる問題点を考察する。映画は女性たちと子どもたちの身体へ、いかにして生政治的暴力が国家の安全や経済成長のために動員され、韓国、アメリカ、日本の間での地政学的交渉の中心として位置づけられてきたかを探究する。これは世界史においては一貫して沈黙させられてきた部分であろうが、「ディアスポラ」の人々の努力に負うところもあって、韓国と西洋における主流なナラティブに抗するかたちで表出してきたものだ。

     本作は人が知らなかったかもしれない何かを想起したり、入念に抑圧されてきたにも関わらず、集合的トラウマの残余や効果として、現在において実は具現化されてしまっている何事かを語ろうとする映画である。複数のナラティブにおけるこれらのギャップや、トラウマと社会的汚名の心理的影響を説明するためにも、非連続かつ実験的な語りの手法がこの映画ではとられている。


    - (左から)

    ジェーン・ジン・カイスン
    ガストン・ソンディン・クン

    これまで3年間に渡ってヴィジュアル・アーティストおよび 映像作家として共同作業を行ってきた2人の制作活動は、抗争の対象としてあらわになりつつある諸歴史をめぐる言説に関わるものだが、そこにおいては歴史的事実は常に争議の対象であり、その効果はトラウマとして位置をずらされて感知される。そのため、2人は自らの行動を通して、この(いまだ定義されることのない)言説そのものに参加すると同時に、それに影響を与えることができる。2人はこのようにして、複数の抗争の場である歴史を、出来事、場所、人々、そして集合的心理をめぐる一連の痕跡を見つめるものとして捉えている。そしてこれらの総体は、複雑な (諸)言語を介して記述されなければならない出来事であると2人は見なしている。その結果としてしばしば現れるのは、幾つかの見解を含んだ主張なのである。作品はこれまで、Videonale 13(ボン)、台湾国際ドキュメンタリー祭、ニコライ現代美術センター(コペンハーゲン)、スカンジナビア・ハウス(ニューヨーク)、Vox Populi Gallery、The Open International Performance Art Festival等で上映されている。