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アジア千波万波 特別招待作品 審査員 |
水手
Water Hands-
シンガポール、セルビア、モンテネグロ/2010/ 広東語、北京語、セルビア語/カラー、モノクロ/Blu-ray(HD)/93分
監督、脚本、撮影、編集、音響、製作、提供:ヴラディミル・トドロヴィッチ
バルカン半島の旅先から手紙を書く中国人の水夫と、帰郷を促す「彼女」の広東語と北京語による往復書簡。異郷の美しい景色を目の当たりにして心が揺らぐ水夫と、様々に姿を変える「彼女」との親密な視線が言葉の行間を行き交う。旅先の村に伝わる民話を櫂に、水夫は異郷の水を自在に航海する。夢見心地の現実とリアリティあふれる夢、シンガポールとバルカン半島の波間をたゆたいながら、どこへ漕ぎ着くのだろうか。
【監督のことば】この映画は最近、セルビアやモンテネグロなどの僻地へ旅したときに生まれた。訪れた場所の中にはスカダル湖がある。あらゆる民族、あらゆる時代の民謡の中で、最も優れた詩だとヤーコブ・グリムに言わしめた、有名なセルビア民謡「スカダルの誕生」に詠われた地だ。同じ旅の途中、ベオグラードの書店で、三島由紀夫の『午後の曳航』に出会った。文学におけるこの2つの傑作が、この映画のライトモチーフとなった。
私は、この地域で耳にした数多くの民話を、故国を離れてシンガポールで暮らすある外国人の日常と比べながら、両者の対極性をとらえた映画を作ろうと決心した。そのため、この映画の半分は、経済的に荒廃したバルカン半島に暮らす庶民の現実に注目し、もう半分は、シンガポールに暮らす外国人の疑似ブルジョワ生活を描いている。作中で主人公が話す広東語は中国やシンガポールでは、公用語とは認められていない。対照的に、彼の恋人は公用語である北京語をシンガポールなまりで話す。彼女が彼の母語である広東語を話すのは、帰って来てくれるよう頼むときだけだ。彼女は常に水夫たちに呼びかけ、その帰りを待っている妻、恋人、母、故郷の役割を果たしている。
中国語で「水手」は水夫の意味である。
ヴラディミル・トドロヴィッチ 映画監督、ニューメディア・アーティスト、エデュケーター。近年発表したコンピュータ・ソフトウェアによる生成的映画『Silica-esc』は、2010年、Visions from the Future--Iridescent Worldsのインターナショナル・コンペティションにおいて、コンピュータ・アート部門特別賞を受賞。日本の文化庁メディア芸術祭でも審査委員会推薦作品に選ばれた。長編デビュー作となる本作は、2011年、ロッテルダム国際映画祭ブライト・フューチャー部門でプレミア上映された。 ロッテルダム国際映画祭、アルス・エレクトロニカ、ウィーン・ミュージアム・クォーター、ベオグラード現代美術館等、数々の国際的な場で映画やプロジェクトを発表している。シンガポール在住。 |