アジア千波万波
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アジアの千波万波に溺れる
アジアは深く、そして広い。底知れないその広さを今年の応募作品からまた改めて教えてもらう。44の国・地域から応募された664作品。加えてインターナショナル・コンペティションに応募されたアジア作品も視野に入れていく予備選考過程では、これだけの作品群を見ることができる幸せも噛み締めつつ、1日が24時間以上あれば、と真面目に祈ったりする。真摯な作り手たちの眼、あるいは画面からあふれてくる作り手たちの愛を通じて映し出されてくる、それぞれの足下や上空に広がる宇宙は無限だ。
台湾、韓国、中国、ネパール、インド、レバノンなどで試行錯誤を繰り返しながら継続的に開催されているドキュメンタリー映画祭。東南アジアにおける映画のジャンルや国境を越えて協力しあうインディペンデントの作り手たちの連綿と繋がるネットワーク。こうした動きの中で、アジア作品は製作数を増しながら、様々に成熟し、グラデーションを見せてきている。特に、各地における製作だけでなく上映の機会の拡がりは、様々な目にさらされることでドキュメンタリー映画そのものの認知や思索も深めている。
今年のラインアップはフィルム作品が1本もなく、ひとつの時代の終わりを予感するとともに、もしかしたら、新しい時代の始まりなのだとも思う。ビデオですぐに撮影できたとしても、製作し、人の目に触れていくことは、無論、手軽ではないであろうし、撮影することが容易ではないフィルムに前提としてあった「ある」覚悟、あるいはそれ以上の覚悟が要求されることになるのではないだろうか。そんなことを考えると、アジアから世界が見えるというクリシェな言葉そのままに、「作品」群に接することが、おこがましくも思え、映し込まれたひとつひとつの粒子の蠢きに眼を凝らす。
予備選考として作品を見る日々は終わりましたが、願わくは、千波万波の日々が果てしなく続いていくことを。山形映画祭の一角で起こる千波万波に観客のみなさまが今年もミューズでもまれ、その先に脈々と広がる海原に、より多くの人が出会えることを心より願っています。また、何よりプログラム実施にあたって応募頂いた製作者のみなさん、そしてご協力いただいた多くの方々に深く感謝いたします。
若井真木子・濱治佳