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交差する過去と現在――ドイツの場合


ドイツ特集開催にあたって Dr. ウーヴェ・シュメルター

過去へのまなざし 佐藤健生

Program A 戦争の記憶と記録

Program B 東西ドイツ戦後史再考

Program C 東ドイツの痕跡

ドキュメンタリー映画の友人たちへ トーマス・フリッケル

共催:ドイツ・ドキュメンタリー映画協会、ドイツ映画輸出公団、Goethe-Institutドイツ文化センター


 山形国際ドキュメンタリー映画祭が始まった1989年、奇しくもちょうど同じ年、冷戦の象徴とされたベルリンの壁が崩壊した。その後、ソ連・東欧圏の崩壊、東西ドイツ統一へと世界が劇的に変化していく中、映画祭もその歩みを進めてきた。新たな世紀の到来を迎えた現在も、依然として世界は混迷を深めている。一方、第二次大戦から60年以上経過したにもかかわらず、大戦の残滓はいまだに現代社会に大きな影を落としている。

 敗戦後ドイツでは、ナチス犯罪人の追及、戦後補償といった問題に取り組んできた。しかし、この「過去の克服」がけっして順調に進んできたものではないことは、ネオナチの出現や、一般国民の加害者性をめぐる議論が物語っているだろう。同時に、東西の領土分断を余儀なくされた戦後ドイツは、共産主義と資本主義という政治的・経済的対立の最前線でもあった。この約40年間に渡る分断国家としての歴史は、冷戦構造が崩壊し、再統一を果たしてから十数年が経った今日にいたるまで、多くの傷跡を残している。

 こうした重層的な過去に対して、ドイツのドキュメンタリー作家たちはどのように向き合おうとしているのか。映像によって過去をどのように再構築しようとしているのか。今回の特集プログラムでは、「戦争の記憶と記録」「東西ドイツ戦後史再考」「東ドイツの痕跡」の3つに分けて、ドイツ・ドキュメンタリー作家の過去に対する試みを見ていく。これら3つのテーマ・時代は独立したものではなく、むしろそれぞれが複雑に絡み合っていることは言うまでもない。作家たちの過去への真摯なまなざしは、テーマだけではなく、その様々な映画的手法という点にも表れていると言える。

 同じ敗戦国日本において、十分に語られてこなかった戦争の加害責任の問題、60〜70年代の反体制闘争、そして、近年アジア地域において注目されている歴史認識問題を考える上でも、これらドイツ・ドキュメンタリー作品は重要な示唆を与えることであろう。

 今回、ドイツ・ドキュメンタリー映画協会、ドイツ映画輸出公団、およびドイツ文化センターとともに、本プログラムを実施できることは大いなる喜びであり、ご協力いただいた映画作家・製作者の方々他、関係者の方々に深く感謝いたします。

矢野和之・橋浦太一