yidff1999小川プロワールドインターナショナル
yidff1999柳沢特集アジア千波万波日本パノラマヨリス・イベンス
yidff1999ビデオアクティビズム事例討議審査員transrate-English

next


■ウィグワム?燃える矢
■橋
■波浪
■雨
■われらは建てる
■フィリップス・ラジオ
■クレオソート
■コムソモール―英雄たちの歌
■新しい土地
■ボリナージュの悲惨
■スペインの大地
■四億
■動力と大地
■インドネシア・コーリング
■最初の年月
■世界の河はひとつの歌をうたう
■セーヌの詩
■早春
■イタリアは貧しい国ではない
■旅行日記
■ヴァルパライソにて…
■ミストラル
■ベトナムから遠く離れて
■北緯17度
■愚公山を移す
■風の物語
■マグニトゴルスク―新しい人間の製造





 
ヨリスイヴェンス特集
 1989年第1回山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別 招待作品として上映された『風の物語』はヨリス・イヴェンスの来日とともに上映する予定であった。しかし残念ながら、同年の6月に90才で風のごとくこの世を去り、イヴェンスの参加は実現しなかった。その後もイヴェンスの作品は『ボリナージュの悲惨』(YIDFF '95電影七変化)、『四億』(「大東亜共栄圏と映画」YIDFF '97)とドキュメンタリー映画の本質や変容を考察し、検証する試みの企画のなかで継続的に上映されている。10年の節目を迎えた第6回の映画祭として、また今世紀最後の映画祭として、イヴェンスの代表作品を可能な限り上映するという回顧展案はいわば水の低きに就くごとく決定された。本企画を遂行するため手元にある乏しい情報と知識を膨らますためにインターネットにアクセスして出会った、ヨーロッパ・ヨリス・イヴェンス財団(イヴェンスの生誕地であるオランダのナイメヘンにある)のコーディネーターであり、イヴェンスの研究家でもあるケース・バカー氏との電子メールでのやりとりを重さね、プログラムは徐々に形成され、その過程から必然的に本企画の共同コーディネーターとしての協力をお願いした。財団で提供しているイヴェンス生誕100年(1998)を記念して制作されたホーム・ページの充実ぶりと貴重な情報は必見である。海外との共同企画は初めての試みであるが、“さまよえるオランダ人(フライング・ダッチマン)”と異名をとっていたヨリス・イヴェンスにふさわしい形態であろう。

 今回の企画の魅力はなによりも、戦争と革命の時代と呼ばれている20世紀の大事件の多くに参加していたイヴェンスの代表作を、13才の時に創った『ウィグワム―燃える矢』(1912)から遺作となった『風の物語』(1988)まで年代的に追い、今世紀の映像の、また時代の変遷と普遍性に思いを馳せながら―イヴェンスのまなざし、思想、芸術性の変容と永続性―を一挙に概観できることである。さらにはオルタナティヴな楽しみ方として、大胆にも次のことを提案したい。イヴェンスの作品には1つの作品においていくつかのヴァージョンが存在する。単にナレーターや字幕言語が違うというだけではなく、違った時間数のヴァージョンも存在するらしい。それは各々の国の検閲の問題や時代とも大きく関わっているのだが、オランダ映画博物館では今、各国で切り刻まれたカットを繋げ完全版への修復作業をおこなっている。上映するいくつかの作品は(もしかしてほとんど?)上映時間が相違するものがあるであろう。それは実際にフィルムが届き、上映してみないことにはわからない。なぜならその記録の更新は常に起こり、イヴェンス財団自体もその修正の把握に追いつけない状態であるからだ。本特集では日本語・英語版がないものに関しては両言語の字幕、同時通 訳あるいは同時通訳録音(事前にビデオに通訳を録音するのだが、上映する作品と完全一致しなければ当然タイミングが合わない)で上映するが、いくつかは本映画祭をきっかけに判明するだろう。まるでセルロイド内で息づいているかのようなイヴェンスの作品群である。同時録音がずれたり、字幕のタイミングが合わない時は映写 室にかけ上がる前にその背景を観想してみよう。そして鑑賞後は迷わずその事実を伝えてもらいたい。なぜならそれが記録修正に繋がり、イヴェンス財団の膨大な作業に少しでも貢献することになるのだから。思わぬ 方向へ転化しつつある本企画はそれこそが生の映画祭の醍醐味でもあり、観客との関係性によって支えられ、発展させることができれば、それはそれで映画祭としての役割を真摯に果 たしているといえるだろう。

なにはともあれ、映画祭という1週間のドキュメンタリーが展開されようとしている。

 
小野聖子(「風〜ヨリス・イヴェンス特集〜」コーディネーター)

■解説■
next

COPYRIGHT:Yamagata International Documentary Film Festival Organizing Committee