くるまれた鋼
Rubber Coated Steel-
レバノン、ドイツ/2017/英語/カラー/Blu-ray/22分
監督、脚本、撮影、編集、音響、提供:ロレンス・アブ・ハムダン
製作:ファービアン・シェーナイヒ(Portikus)
製作会社:Portikus
2014年5月15日、パレスティナ・ヨルダン川西岸地区でイスラエル兵によってパレスティナ人の若者、ナディーム・ヌワラとモハマド・アブ・ダヘールが射殺された。この事件が、監督も参加するグループ、フォレンジック・アーキテクチャーによる「ナクバの日殺害事件レポート」として作成された。そのレポートをもとに、銃声が響く現場に居合わせた人の証言、裁判官や弁護士らのやり取りが克明に記される法廷審理記録や銃声の解析図から、観る者の前に「沈黙の裁判」が立ち現れる。
【監督のことば】2014年5月、ヨルダン川西岸地区で、武器を持たない10代のパレスティナ人2名が、イスラエルの兵士に殺害された。私は、そのとき使用されたのが実弾なのかゴム弾なのかを確かめるべく、音声分析を行った。本作は、その発砲事件を中心に描いているが、ここではどんな銃声も聞こえない。『くるまれた鋼』は、被害者の声に責任を持つのではなく、彼らの沈黙を増幅しようとすることで、現在人権がどのように審問されているかを問い返す。
アーティストにして「音の探偵」、ニュースクール大学ヴェラ・リスト芸術政治学センターでフェローでもある彼の仕事は、音声と映像を用いたインスタレーション、パフォーマンス、グラフィック作品、写真、イスラム教の説教、カセットテープを使った作品、ポテトチップスの包装袋、エッセイ、講義など、多岐にわたる。音声と政治の関わりへの関心は、かつて彼がDIYで音楽を制作していたというバックグラウンドに由来する。英国の移民及び亡命審判所の法的調査に音響分析で協力するほか、アムネスティ・インターナショナルやディフェンス・フォー・チルドレン・インターナショナルによるアドボカシーにも関わっている。その犯罪学的声分析は、ロンドン大学ゴールドスミス校におけるフォレンジック・アーキテクチャーのPhD研究の一環でもある。これまで「Earshot」(2016、ポルティクス・ギャラリー、ナム・ジュン・パイク賞)、「Taqiyya: The Right to Duplicity」(2015、ザンクトガレン美術館)、「Tape Echo」(2013、カイロのアートスペース「ベイルート」およびファンアッベ美術館)、「The Freedom of Speech Itself」(2012、ザ・ショールーム)、「The Whole Truth」(2012、カスコ)など数々の個展を開催。上海ビエンナーレ、ホワイトチャペル・ギャラリー、バルセロナ現代美術館、テート・モダン、ニューヨーク近代美術館、ポンピドゥー・センター、ベイルート・アート・センター、台北ビエンナーレでも展示やパフォーマンスを行う傍ら、『Forensis』『Manifesta Journal』『Cabinet Magazine』といった媒体で著作も発表している。彼の作品は、ニューヨーク近代美術館、ファンアッベ美術館、ポンピドゥー・センター、アーツカウンシル・イングランドなどに収蔵されている。