やまがたと映画
銀幕よ甦れ! やまがた映画館異聞録
あれから10年:今、佐藤真が拓く未来
やまがた映像の未来
映像文化創造都市山形を目指して
エンカウンター・シネマ in Yamagata
協力:山形大学人文社会科学部附属映像文化研究所
やまがたの横顔は、銀幕を見ている
本県と映画の関わりを考え、やまがたの過去・現在・未来を探求するプログラム「やまがたと映画」も今年で10周年、5回目を迎える。当初は「県内に死蔵したフィルムを発掘する」「県内出身の監督や俳優の作品にスポットライトを当てる」などのテーマが自然発生的に生まれていたのだが、回を重ねるにしたがい限定的なテーマは薄れ、より緩やかで多様な編成になってきたように思う。私自身はそのことを肯定的に受け止めている。映画という表現手段と本映画祭の幅広さを証明した結果と考えているからだ。ではさっそく、やまがたの雑多な魅力を有するプログラムを駆け足でご紹介しよう。
地域と映画の関係性を考察するとき、〈場〉、すなわち映画館を無視することはできない。「銀幕よ甦れ! やまがた映画館異聞録」は、県内にかつて存在した映画館をピックアップし、その意味を再考する特集である。今回は酒田市にかつて存在したグリーン・ハウスと、押井守の実写作品『紅い眼鏡』の撮影場所となった上山市のトキワ館を取り上げる。絢爛豪華さゆえに「世界一の映画館」と謳われながらも、酒田大火の出火元となったことによりその名前を語ることが半ばタブーとなってしまったグリーン・ハウス。消失から歳月を経たいまこそ、地域にもたらした文化的な意味を問うてみたい。そして、現代を代表するアニメーション監督は、なぜ古びた映画館をロケ地に選んだのか。そして、『紅い眼鏡』という作品がのちの押井作品にどのような影響を与えたのかを探ってみたい。単なる懐古趣味にとどまらない、地域の根っこを見つめる時間になるのではないだろうか。
「あれから10年:今、佐藤真が拓く未来〜全作上映とトーク」では、本映画祭と関わりの深かった映画監督・佐藤真の作品を上映しながら、そのまなざしを通じ、改めてドキュメンタリー映画の意味と意義を考えていく。加えて関係者によるトークイベントで、“伝説の一夜”として語り継がれる1991年の映画祭で催された『阿賀に生きる』ラッシュ上映の模様などを振り返る予定だ。
そして、10年目を迎える「やまがた映像の未来」は、東北芸術工科大学の学生による作品上映。この地に暮らす若い才能は、やまがたをどのようにとらえているのか確かめてほしい。「映像文化創造都市山形を目指して」では、やまがたに残る伝統工芸の記録映像を紹介する。映画祭とはまた違った山形の魅力を、県外者にこそ知ってもらえたらと願う。ほかにも「やまがたと映画」では、作品上映以外にトークイベントやディスカッションを多数予定しているほか、今年は山形市民を対象とした映像制作ワークショップなども行われる。詳細はプログラムで確認いただきたい。
〈やまがた〉というおぼろげなキーワードで選ばれた、一見すると無関係に思える作品やイベントの数々である。しかし、それらを丁寧に結び合わせた先には、山形県のかたちを想起させる「映画の横顔」が浮かび上がってくるに違いないと私は信じている。