審査員
アピチャッポン・ウィーラセタクン
●審査員のことば
私にとって、映画祭の審査員は本当に気の重い仕事だ。それでも新しい国を訪れたり、大好きな街や文化に身を置いたりできるチャンスと引き替えに、この苦痛に慣れ、楽しむようになった。というのも、数ある映画の中からどれがより優れているかを判断することなどできないと、私は単純に信じているからだ。監督はみな、それぞれ目的を持っている。政治的な主張を訴えたい、ひと儲けしたい、観客にショックを与えたい、自分の失われた夢を探したい、などなど。それら多様な映画の中には、観る者の中に奇妙な生き物を残すような、特別な映画が必ず存在する。これが、もうひとつの苦痛だ。その生き物は、まったく予期していなかった時に頭をもたげる。買い物をしている時、シャワーを浴びている時、車を運転している時、セックスをしている時に、何の前触れもなく、あなたはつぶやく。「ああ、そういえばあんなシーンが……」。何も考えず、惰性の人生を送る悦楽に浸っていたいのに、物事を違う角度から眺めることを余儀なくされる。人類が初めて洞窟で行った影絵芝居から『スパイダーマン』にいたるまで、私たちは良かれ悪しかれ、その獣の力によって、世界を変え、考え方を変え、そして互いに結びついてきた。この山形国際ドキュメンタリー映画祭でも、たくさんの獣たちが放たれることになるはずだ。だからみなさん、ご用心を。
1970年生まれ。建築学の学士取得後、シカゴ芸術大学で映画制作を |
世紀の光
Syndromes and a CenturySang Sattawat
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タイ、フランス、オーストリア/2006/タイ語/カラー/35mm(1:1.85)/105分
監督、脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
撮影:サヨンプ・ムクディープロム
美術:アッカラット・ホームロー
録音:アッサリットチャルーム・ガンラヤーンミット
編集:リー・チャターメーティグーン 音楽:カンティー・アナンタガント
出演:ナタラット・サワディクン、ジャルチャイ・イアマラム、ヌー・ニムソムブーン、ソーポン・プッカノーク、アッカネー・チャーガム
製作:アピチャッポン・ウィーラセタクン、パンタム・トーンサン、シャルル・ド・モー
製作総指揮:サイモン・フィールド、キース・グリフィス
製作会社:キック・ザ・マシン、TIFA、アンナ・サンダース・フィルムズ
配給:フォルティッシモ・フィルムズ
前半の郊外の小さな病院と後半の都心部の近代的な病院、ふたつの病院を舞台に、それぞれ新しく赴任してきた医師が質問される場面から始まって、医師たちの日常が描かれる。『ブリスフリー・ユアーズ』、『トロピカル・マラディ』に引き続き、ストーリーが展開するというよりも、監督独特の不思議な世界が変奏曲のように奏でられていく。