審査員
蓮實重彦
●審査員のことば
「映画とは何か?」という抽象的な問いを口にする以前に、映画の「歴史」をその「現在」として燃えあがらせ、有無をいわせず「これが映画だ!」とつぶやかせてしまうような作品を、1本でも多く見てみたい。リュミエール兄弟には存在していなかった「ドキュメンタリー」と「フィクション」という概念的な枠組みに揺さぶりをかけるような瞬間へと、見る者をひたすら誘ってほしい。
第10回を迎える山形国際ドキュメンタリー映画祭の20年の歩みに、そんな思いで観客として立ち会ってきた私の姿勢は、審査員となった今年もまったく変わることがない。安堵よりは当惑のさなかで目覚め、持続よりもその断絶を生々しく体験したいという思いは、これまで審査員として山形を訪れ、その後、不運にもこの世界から遠ざかってしまったかけがえのない友人たちの記憶を反芻することで、さらに深まる。
ロバート・クレイマー、エドワード・ヤン、セルジュ・ダネー、工藤栄一、柳澤壽男、といった忘れがたい顔ぶれから引きついだバトンの重みに、私は充分すぎるほど自覚的である。幸いなことに、映画祭は、記憶を「過去」としてではなく、あくまで「現在」の体験として生きることを嘘のように許してくれる。
映画評論家、文芸評論家、フランス文学者。1936年、東京生まれ。1970年から東京大学と立教大学で映画ゼミを開講。1997年から2001年まで、東京大学総長を務める。主要な著作は、フローベールの小説をめぐる幾多の日仏両国語による論文のほか、『反=日本語論』(1977、筑摩書房、読売文学賞受賞)、『監督 小津安二郎』(1983、筑摩書房、仏訳版でフランス映画批評家連盟文芸賞受賞)、『マクシム・デュ・カン論――凡庸な芸術家の肖像』(1988、青土社、芸術選奨文部大臣賞受賞)、文芸批評でも日本の近現代作家をめぐるモノグラフィーや理論的な分析も発表するなど、きわめて幅広い領域にわたり執筆・評論を行う。映画評論家としては「映画狂人」シリーズを始め多くの著書があり、「カイエ・デュ・シネマ」、「シネマ」、「トラフィック」(フランス)、「フィルム・コメント」(アメリカ)など、海外の雑誌にも寄稿。ヴェネチア、ロカルノをはじめ多くの国際映画祭の審査員をつとめ、1998年のサン・セバスチアン国際映画祭での「成瀬巳喜男特集」カタログ作成等、海外の日本映画作家の特集上映の作品選定や、書物責任編集も多数。2007年、川喜多賞を受賞。 |
北野武 神出鬼没
Takeshi Kitano, the UnpredictableTakeshi Kitano, L'imprévisible
- フランス/1999/フランス語、日本語/カラー/ビデオ/68分
監督:ジャン=ピエール・リモザン
撮影:ジャン=マルク・ファーブル、佐久間栄一
編集:ダニエル・アネザン、ティエリー・ドネイ
録音:滝沢修 ミキシング:パスカル・ルッセル
出演:北野武、蓮實重彦
製作:グザヴィエ・カルニオー、エリザベート・マルリアンジャ
製作会社:AMIP
共同製作会社:La Sept-Arte、I.N.A.、オフィス北野
提供:オフィス北野
1989年に突然『その男、凶暴につき』で映画監督になり、その後『3-4x10月』(1990)、『ソナチネ』(1993)、『HANA-BI』(1997)等で作品ごとに話題を喚び世界的に評価されるようになった北野武(ビートたけし)監督に、蓮實重彦氏がインタビュー。当時東京大学の総長であった蓮實氏の総長室から始まって、様々な場所でのふたりの会話が記録される。フランスの現代映画作家シリーズの一編で、『TOKYO EYES』(1998)のジャン=ピエール・リモザン監督作品。