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アルゼンチン/2007/スペイン語/カラー、モノクロ/35mm(1:1.85)/150分
監督、脚本:ニコラス・プリビデラ
撮影:カルラ・ステーヤ、ホセフィーナ・セミーヤ、ニコラス・プリビデラ
編集:マル・エルドゥト
録音:デミーアン・ロレンサッティ、ルーベン・ピプート
製作:パブロ・ラット
製作総指揮:ベネッサ・ラゴーネ、パブロ・ラット
製作会社、提供:トリビアル
1976年、アルゼンチン軍事政権下。突如消息不明になったマルタ・シエラ。当時6才だったマルタの息子、ニコラス・プリビデラ監督は、この謎について関係機関や当時の同僚、地下組織運動仲間を訪ねながら、失われた母親像の破片を集めていく。映画はマルタ失踪事件の謎がサスペンス風に描かれているだけでなく、軍事クーデターで多くの人が殺され行方不明になった状況など、アルゼンチンの歴史があぶり出される。記憶を決して風化させない監督の姿勢が感動を誘う。
【監督のことば】アルゼンチン軍事独裁政権時代に行方不明になった母親に関して、国と家族が口をつぐんでいる事態をいったんは受け入れた後、私は母の失踪をめぐる“真”の形跡や痕跡の調査に身を投じた。司法に訴えるとともに、その穴を補うべく、“セルフ・ドキュメンタリー”という手法で個人的にも調査を進め、母の物語に関与している人々を探しはじめた。
調査の過程は、一方で母親として、他方はモントネロスとして交わることのない(Mはマザーの頭文字であると同時に、ペロン派ゲリラ組織のモントネロスの頭文字でもある)マルタの人生を追い、最後には個人と政治のふたつの流れがひとつになる(あの時代、レッテルを貼られることは生死を分けた)。“責任者”を追い求める過程は、過去に“市民社会”が果たした役割に疑問を投げかける形をとる。そして、その問いは未だ残されている。
我々は過去を置き去りにすることができない。ごく単純に、あの過去を引きずる道は絶たれるどころか、過去は依然として大手をふって歩いている(まさに「殺人者はまだ我々の中にいる」ように)。過去との距離、またその近さからは誰しも逃れることができない。しかし映画なら、記憶を再構築する象徴的な手段として、ひとつの貢献にはなるだろう。
なぜなら、もし司法がその役割を果たさないとしても、映画は他の多くのものと同様に、欠落を埋める手段になるだろう。あれほど途方もない損害を補う小さな貢献。個人的で他に置き換えられない行為でも、まさしくそれだからこそ他者へも広がる。我々一人ひとりが、自分のイメージや物語、パズルのかけらを提供すれば、いつの日かタペストリーは編まれ、人の姿が浮かび上がるだろう。そのとき初めて、個人の記憶は社会性を持ち、何者にも奪われない権利になるだけでなく、避けることのできない義務にもなるのだ。
ニコラス・プリビデラ 1970年、ブエノスアイレス生まれ。90年代にブエノスアイレス大学を卒業、コミュニケーション学の学位を取得。国立映画&視聴覚芸術研究庁(INCAA)付属の映像実験&製作センターでも学ぶ。『M』は彼のデビュー作であり、マル・デル・プラタ映画祭でエルネスト・チェ・ゲバラ(最優秀ラテンアメリカ映画)賞とFIPRESCI賞を受賞した。 |