主人公
Protagonist-
アメリカ/2006/英語、ドイツ語/カラー/35mm(1:1.85)/90分
監督、脚本、編集:ジェシカ・ユー
撮影:ラッセル・ハーパー、カール・ハーン
録音:マシュー・イアダローラ
音楽:ジェフ・ビアール
アニメーション:ロバート・コーナー
人形デザイン:ジェニー・ゲイシャー
製作:ジェシカ・ユー、スーザン・ウェスト、エリセ・パールステイン
製作総指揮:グレッグ・カール、ノーブル・スミス
製作会社:ディオラマ・フィルムズ
配給:サブマリン・エンターテインメント
ゲイの伝導師、ドイツ人テロリスト、カンフーオタク、銀行強盗。極端な過去を持つ4人が語る波乱万丈な「人生」という長い放浪旅。それぞれ小さな頃から「真理」を追求して生きてきたが、やがてその限界を悟っていく。エウリピデスの描いたギリシャ悲劇の世界観から生み出された本作は、古代ギリシャ演劇の仮面人形劇を交差させた趣向を凝らした構成で、一見バラバラな4人の話を共鳴させ、言葉の躍動感を見事に描く。
【監督のことば】この映画は奇妙な挑戦から生まれた。2003年、カール基金のグレッグ・カールとノーブル・スミスから、ギリシャ悲劇作家のエウリピデスを題材にしたドキュメンタリーを作らないかと声をかけられた。それからの2年半は、ドキュメンタリー映画作家としてもっとも大きな充実感を味わい、冒険を楽しむことができた。
この映画のコンセプトは、現実の人生が、エウリピデスの悲劇にあるドラマティックな弧と呼応している人たちを描くこと――つまり、過激主義に走る人たちの悲劇である。正当な理由のためにある道を歩きだしたのに、その大義に深くのめり込んだため、当初の意図とは正反対の自分になってしまう。私が興味を持ったのはそのようなキャラクターだ。本人はその事実に気づいていないが、やがて運命とそのキャラクターの持つ力がクライマックスに向かって高まり、そして暗黒の真実の瞬間が訪れる。過激主義の脅威は現代社会に重くのしかかっているが、この問題そのものは何世紀も前から教訓譚の題材になっている。人はなぜ、このようなモラルの過ちを犯してしまうのか? 破滅的な独善主義の罠を避けることは可能なのか、それとも人は自らの間違いからしか学べないのか? 人格というものは運命なのか?
私は、一見したところはまるで違う複数の個人の物語を語りたかった。そして各々の物語が明らかになるにつれ、それぞれの特異な体験が、共通の体験として類似性が浮かび上がるようにしたい。その目的を達成するために、本作ではエウリピデスの悲劇、主に『バッコスの信女』からの抜粋シーンを各章頭に配置し、4人の主人公の人生の各段階を表すリードとした。劇の抜粋は物語の暗示として用いられており、エウリピデス作品を詳細に分析しているわけではないが、ギリシャ悲劇の様式を取り入れることで、元の舞台を彷佛させ、4人の物語の共通性を強調したかった。映画の各所で人形劇を用いたことが、このアプローチのカギになっている。
ジェシカ・ユー ロサンゼルスを拠点とする映画作家。映画『Breathing Lessons: The Life and Work of Mark O'Brien』では、小児麻痺で40年間、呼吸補助装置につながれていた作家の生涯を緻密に描き、1997年アカデミー短編ドキュメンタリー映画賞を受賞。謎めいたアウトサイダー・アーティスト、ヘンリー・ダーガーを描いて好評を博した長編ドキュメンタリー『In the Realms of the Unreal』は、サンダンスでプレミア上映され、バンクーバー国際映画祭とニューポートビーチ映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を獲得。ニューヨークの精神病院の中にあるアートコミュニティを描いた『The Living Museum』などを製作。近年、初の長編劇映画となる『Ping Pong Playa』を監督。 |