沈黙の情景
The Still SideEl Lado Quieto
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メキシコ、フィリピン、アルゼンチン、韓国/2021/英語、スペイン語/カラー/DCP/70分
監督、脚本、編集:ミコ・レベレザ、カロリーナ・フシリエル
撮影:ミコ・レベレザ、カロリーナ・フシリエル
録音:ミコ・レベレザ、マテオ・フシリエル、カロリーナ・フシリエル
音響:ミコ・レベレザ
提供、製作:Arquitectura Parlante
かつてリゾート地として賑わっていたメキシコの島。遠くマニラから泳ぎ着いたばかりの伝説の生物ショコイの目と耳を借り、いまは無人となり放置された廃墟に、かつてあった営みを幻視し、響いていた声を蘇らせる。刹那的な欲望に満ちた大衆消費文化が、古代から悠久の時を刻む島の大地にそのいびつな痕跡を残す一方、新たな漂着者の目にそれはどう映るのか。海と森、人工の遺物は、次に訪れる者をひっそりと待っている。(HA)
【監督のことば】人がいなくなったら、そこには何が残るのか?
建設に使われた資材がたてるその音は鳴りやまない。これらの空間の音響、何らかの生命の兆しは聞こえてくる……木をかじるシロアリのようなごく小さな生き物、ある場所に空気を行きわたらせ、酸素を取り込む通風管。
音はまるで生きた幽霊の通り道のようだ。その素材の根幹となるものからある場所を再訪する手段としての音。居住空間は、人間の生活と、彼らの屋内でのニーズを内包するために独自の設計がなされている。しかし、これが消えたらいったいどうなるのだろうか? 音が生まれ、そこを住処とする。それは身体性を持つ。それらの場所を通過する肉体と同じくらい鮮明な存在だ。
拡声される良心の声。新自由主義帝国の声として偽りの約束とともに循環を続ける幽霊。われわれの世代の精神は、進歩という偽りの約束の上に築かれている……たとえ目に映るものが巨大な廃墟であっても、幽霊はまだ生きている。
彼らはある秩序を強いるためにやってくる。何かを約束してくれるプロパガンダによる秩序、約束された未来の秩序。すでに存在せず、しかし良心の欲求に応え続けるという秩序。声は残る。しかし肉体は残らない。
1988年マニラ生まれ。フィリピンとメキシコに拠点を置く映画作家。不法移民として育ち、現在はアメリカを追われた身であるという境遇が、自身と動くイメージとの関係に色濃く反映されている。『ドロガ!』(2014、YIDFF 2017)、『ディスインテグレーション93−96』(2017、YIDFF 2017)、『ノー・データ・プラン』(2018、YIDFF 2019)、『Distancing』(2019)は、ロカルノ映画祭、ロッテルダム国際映画祭、ニューヨーク映画祭プロジェクションで上映された。バード大学で美術学修士号を取得。2019年フラハティ・セミナーに映画作家として参加し、2021年にはヴィルセク賞を受賞。
カロリーナ・フシリエル(右)
1985年ブエノスアイレス生まれ。自然景観との関連による未来の概念を探るマルチアーティスト。アメリカのポロック=クラズナー財団(2019−2020)、メキシコのフメックス財団(2019)から助成金を受ける。近年、ニューヨークのザ・ドローイング・センターとスカルプチャー・センター、マイアミのロカスト・プロジェクト、ドイツのナタリア・ホグ・ギャラリーで作品が展示された。アルゼンチンの映画大学(FUC)で映画とアニメーションの学位を取得。さらにドイツのデュッセルドルフ芸術アカデミー、メキシコのソマ、アルゼンチンのトルクァト・ディ・テラ大学(UTDT)でも学ぶ。