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審査員
イギル・ボラ

이길보라

●審査員のことば

 映画作りのなかで一番好きなパートを選ぶとしたら断然、編集と上映である。カットとカットが出会い、ナラティヴを形成し、それが物語となって観客に伝わる過程はいつも新しい。観客はそれぞれの方法で映画を鑑賞する。映画は上映される時期と場所によって新しい議論を作り出す。映画を通して見聞きし、語り、心を通わせ、思考する過程は世界を違った視点で読み解く過程であり、だから私は映画作りを通して世界と出会う。

 ろう者の両親のきらめく世界を娘の視点と監督としての視点で描いた映画『きらめく拍手の音』(2014)は2015年、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門で特別賞を受賞した。私にとっては初めての長編映画であるうえ、初めて招待された海外映画祭だった。会場の片隅で静かに映画を鑑賞した。きっと笑いがこぼれるだろうと思っていた場面では誰も笑わなかった。不安な気持ちでQ&Aに参加した。近所のおばあさん、おじいさん、おばさん、おじさん、お姉さん、お兄さんのような皆さんが明るい笑顔で両腕を上げ、きらめく拍手で歓迎してくれた。口を開けて笑うだけにとどまらず、全身で映画を鑑賞してくれたのだ。映画祭の期間中、交流の場である和風レストランに行くと、皆に会えた。映画製作陣、観客、映画祭のスタッフおよびボランティアが分け隔てなく交わり、会場で話せなかったことを話していた。なんとも興味深い映画祭だった。

 静かでありながら、にぎやかでもあった映画祭と町が気に入った。そこで私の映画は、私が生まれ育った所とは異なる脈絡で解釈された。“障がい”に関する映画ではなく、異なる文化と言語が衝突したときに生まれる物語になった。それは日本手話を使う日本のろう者に関する物語でもあり、在日朝鮮人、在日韓国人をはじめとした日本に住んでいる他民族の物語でもあり、同時に固有性と多様性に関する問いかけだった。異なる言語と文化圏での上映を通して、映画の可能性を思慮深くみつけてくれた観客を経由し、私の映画に再び出会う経験ができた。

 秋の始まりには山形国際ドキュメンタリー映画祭に思いを馳せる。一日中、映画を見て、散歩の途中に観客と気軽に話した瞬間を思い出す。そうすると、自然に(映画を作る)力が湧いてくる。2021年、映画祭はオンラインでの開催となるが、私/私たちは待っている。もう一度、あの場所に集まり、映画を通して違った視点で世界に出会える瞬間を。あの時間と空間は続くべきである。今年の試みがもたらしてくれる発見と可能性にも期待したい。


イギル・ボラ

ろう者の両親のもとに生まれたことが、語り手の先天的な資質だと信じ、文章を書き、映画を撮っている。韓国芸術総合学校映像院放送映像科学士、Netherlands Film Academy Artistic Research in and through Cinema 映画学修士課程修了。『きらめく拍手の音』(2014, YIDFF 2015特別賞)は、韓国内外の映画祭で上映され受賞をはたし、韓国と日本で劇場公開された。ヴェトナム戦争での韓国軍の民間人虐殺にまつわる、それぞれ異なる記憶を収めた映画『記憶の戦争』(2018)は釜山国際映画祭ワイドアングル部門審査員特別賞、アメリカ東アジア人類学会デビッド・プラースメディア賞を受賞した。著書に『きらめく拍手の音』『やってみなけりゃわからない』『あなたに続いて話す』ほか。2020年に Young Art Support Amsterdam賞、2021年、オランダ政府が世界各国の女性リーダーに授与するジェンダー・チャンピオン賞を受賞した。長編映画として企画中の『Our Bodies』は2020年、ベルリナーレ・タレンツのドック・ステーションプロジェクトに選定された。