English

インターナショナル・コンペティション



審査員
安里麻里
東琢磨
斉藤綾子
マーク・シリング
志賀理江子

作品解説:阿部宏慈(AK)、遠藤徹(ET)、濱治佳(HH)、飯野昭司(IS)、稲田隆紀(IT)、
加藤初代(KH)、田中晋平(TS)、吉田未和(YM)、結城秀勇(YH)



無観客を祝う

 香味庵のないヤマガタ、スクリーン上映のないヤマガタは、果たして祝祭となりうるだろうか。唯一絶対なるものを崇める祭典ではなく、権力者の悪政から目をそらさせる作り物のセレモニーでもなく、日常を支配するヒエラルキーから解放され、人々が同じ地平で言葉を交わす対話のカーニヴァルは、出現しうるだろうか。

 インターネットを通じて垣根なく映画を楽しもう、つながろう、などという楽観論を披露するほど、わたしたちは無邪気ではいない。むしろ世界のすみずみまでを侵食する網の目がいかに情報と富を偏在させ、社会を分断しているかを、これまでのヤマガタの上映作品は詳らかにしてきた。

 それでもYIDFF 2021は、オンラインで映画を届け、祝祭を希求する。その顔ともいうべきインターナショナル・コンペティションには今年も、カメラを持つ者と向けられる者との果てしない対話の果てに生まれた1000本を超える作品が世界中から応募され、予備選考委員による長く苦しい対話のすえ15作品が絞り込まれた。

 国家や戦争という巨大な装置に巻き込まれる市民、グローバル資本による開発の波に翻弄される農家、加速化する時代の変遷のなかで取り残されそうになる踊り子たち。ともすれば大いなる存在の一息で吹き飛ばされかねない個人の生き様が作家の目と手で記録され、固有名詞に満ちた世界が現前化される。一方で、高度情報技術と結託した粗暴な権力が、カメラの前の被写体やカメラの後ろの作家たちから名を奪い、顔を覆い隠し、匿名化させる現実を、あなたは目の当たりにする。

 15作品それぞれがはちきれそうな緊張関係を内包し、見るものによって対話のドアが開かれる瞬間を待ちわびている。出自も経歴も関係なく、ベテランから若手まで同一地平に肩を並べた作家たち。その作品は互いの摩擦によって熱を持ち、作り手さえ予想し得なかった新たな対話を生み出すだろう。第17回目にしてはじめてオンラインで開催される今年のインターナショナル・コンペティションもやはり、混沌であり、対話の祝祭である。

 パソコン上で束の間像を結ぶのは人間の身体とその匂いであり、生身の作家と世界との格闘の生々しい痕跡だ。それはデジタル信号に還元され得ない、パソコンの画面からやすやすとはみ出してしまう、この世界の残酷さと生の豊穣さである。

 そもそもヤマガタは、オンラインだろうがオフラインだろうが、その成り立ちからして「無観客」だったのではないか。小川紳介のまわりに集った映画を愛する若者たち、そして行政、市民、ボランティアがあらゆる垣根を越えてともに作り上げたドキュメンタリーの祭典。スクリーンに向かうものはいやがおうでもその力強い作品世界に巻き込まれ、いつのまにか傍観者であることをやめ、主体的な参加者となる。

 このめくるめく対話の饗宴、インターナショナル・コンペティションの実現にあたり、予備選考、字幕、上映、配信、通訳、審査、あらゆる面でご協力いただいた皆様に、心から感謝いたします。そして一期一会の対話の機会を与えてくれた応募者の皆様に最大限の感謝を捧げます。

遠藤徹(プログラム・コーディネーター)