未来への映画便
リュサス国際ドキュメンタリー映画祭協力プログラム
映画「と」話す
映画を見ることは、自分を超えた存在と出会い、驚き、他者に思いを馳せる体験に他なりません。新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の間に交流の「不自由さ」を顕在化させ、「分断」を生み出しました。私たちから出会いが一時的に失われ、互いに「話す」という行為が奪われたいまだからこそ、映画を通してその言葉や声に耳を澄まし、スクリーンに映し出される存在と向き合ってほしい――YIDFFでは、2020年9月より、「10代のための映画便」と題して、高校生や大学生を対象にして過去の受賞作品を配信し、映画を鑑賞した人々から寄せられた意見を紹介してきました。
今回の映画祭では、クレール・シモン、チョン・ジェウン、ニシノマドカの3本の作品をお届けし、高校生・大学生を対象とした鑑賞ワークショップを行います。また、映画教育に関するシンポジウムを実施し、海外の鑑賞教育の事例を紹介します。作品の選定にあたっては、リュサス国際ドキュメンタリー映画祭のクリストフ・ポスティック氏と意見を交わし合い、まさに世界に存在するもの同士が「話す」ことを主題とする映画を配信することになりました。若い人々の不安や孤独な声をすくい上げたクレール・シモンの作品は、その結果として選ばれたものです。
リュサス国際ドキュメンタリー映画祭と山形国際ドキュメンタリー映画祭はともに1989年に創設されました。地域社会に根差した映画祭であることに加え、ドキュメンタリー映画を通じて世界中の人々が集まり、議論することによって新たな思考と表現を紡いでいこうとする姿勢に互いに共感し、主に若い観客を対象とするこのプログラムをともに立ち上げることにしました。私たちとしては、今後も映画祭同士の交流を継続し、広げていきたいと考えています。
このプログラムを通じて、映画からの声、それに対する応答が、いつかどこかで、誰かに届くことを願っています。
リュサス国際ドキュメンタリー映画祭
フランス南東部、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方のアルデッシュ県に位置する人口約1000人の小さな村リュサスで、毎年夏に開催される非コンペティション型のドキュメンタリー映画祭。1989年に設立され、プログラムの質の高さによって国内外にも広く知られている。期間中は多くのドキュメンタリー映画の関係者やシネフィルをはじめとして、村の人口の数倍以上の観客が訪れる。「ドキュメンタリーを映画のみならず、歴史的、政治的、経済的な側面から思考する」という目的を掲げ、作品とさまざまな人びととの出会いの場として機能してきた。2001年には、小川紳介特集が企画され、佐藤真監督が招待されている。