怖れと愛の狭間で
Fear(less) and Dear誠惶(不)誠恐,親愛的
-
香港/2020/広東語/カラー/デジタル・ファイル/106分
監督:麥海珊(アンソン・マック)
出演:張嘉莉(クララ・チョン)、黃照達(ジャスティン・ウォン)、張婉雯(チョン・ユンマン)
舞踏:莫穎詩(ヴィンチ・モク)
撮影:黃瑋納(ウォン・ワイナー)、麥海珊
編集:陳序慶(ノーズ・チャン)、麥海珊
録音:李穎姍(フィオナ・リー)
音響:陳思㦊(チャン・スエワー)
音楽:四方果(Square Fruit)
製作:何梓埼(キキ・ホー)
提供、配給:First Light Images
親でもある3人のアーティスト。監督は同じアーティストとして、雨傘運動以来デモに参加してきた何百万のうちの3人の思いを聞きながら、自身の思いを映像に託していく。いまの香港の路上、見えないもの、消されるもの、写してはいけないもの。これまでの民主化闘争最前線の記録と比べるとまったく様相が異なるように見えつつも、ここにあるものが延長戦上にあることは無視できない。さまざまなかたちでデモに参加した実感やそれぞれの芸術表現を身体に共振させながら、怖れのありかに不安を抱え2019年夏以降の香港の日常を皆生きている。(WM)
【監督のことば】50歳を過ぎ、人びとの内なる深い情動や心理的条件、そしてそれらがどう生じるのかといったことに対する関心が高まったことで、そのために考えられる方法をなんとか見つけ出したいと思うようになった。怖れることと怖れないことは有る無しの問題ではなく、それ自体がこころのなかを探っていく内なる旅路にほかならない。探索の過程において外的状況が反映されるのは避けがたいけれど、とはいえ外界の現象そのものはここでの焦点ではない。この映画の趣旨は人びとのこころにある。
香港の人びとはトラウマ的な極限状況にさらされた状態をもう1年以上も続けている。癒しや解決が訪れるには長い時間がかかることだろう。独裁体制と不合理と社会分断に直面した人びとにとって唯一の出口は、自身のこころを理解し整え、そのうえで自分や他人に愛と思いやりを提供することにある。これは感傷的にすぎるように思えるかもしれないが、方法はそれ以外にないのだ。
一方で美的な探求についてなら、そこにはドキュメンタリーと映像/文学/パフォーマンス/音楽/フィールド・レコーディング(音とイメージ)の実験との境目が溶け合うような実験的試みを行う余地がたっぷり残されている。この作品が試みるのは、思考と感情、記憶と想像、私的/個人的経験と公的/社会的経験とを、形式的実験を通じてひとつにすることだ。このように複数の次元が織り込まれた形式においては、自分自身のこころに多様なレベルで目を向けることが可能になるのである。
映像と音響を専門分野とする研究者・アーティスト。現在は香港侵会大学視覚芸術院で准教授の任にあり、とりわけ実験的なエスノグラフィに関心を寄せている。その作品はアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭、釜山国際映画祭、バンクーバー国際映画祭、台北金馬映画祭、香港国際映画祭、オーバーハウゼン国際短編映画祭など、多数の国際映画祭や展覧会で紹介されている。主なドキュメンタリー作品としては『One-Way Street on a Turntable』(2007)、『A Map of Our Own: Kwun Tong Culture and Histories』(2009)、『On the Edge of a Floating City, We Sing』(2012)、『From the Factories』(2020)がある。