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[フランス、日本]

言語の向こうにあるもの

Beyond the Language

- フランス、日本/2019/フランス語、英語/カラー/デジタル・ファイル/97分

監督、撮影、録音、編集:ニシノマドカ
出演:ニコール・ブロンドー、フェルージャ・アルアーシュ、アニー・クエデル、パリ第8大学の学生たち
提供:ニシノマドカ

パリ第8大学ヴァンセンヌ・サンドニの公開授業「外国語としてのフランス語講座」では、世界中から来た学生たちによる自由でウィットに富んだ討論が繰り広げられている。大学特有のエスプリがただよう60年代の授業風景の白黒フィルムを挿入しながら、作品はふたりの教師ニコールとフェルージャによる授業「執筆活動とジェンダー(社会的に形成された性)」そして「文学作品 :小説から映画へ」に焦点を当てる。教室内の学生たちが抑圧から解放され自らの考えを表現しながら社会と関わるべく、人間の変容を目指して闘う姿が描かれ、観客にも多くの問いを突きつけていく。(MA)



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【監督のことば】旧植民地諸国から無数の労働者を安価な労働力として呼び寄せた歴史を持つフランスにおいて、外国人のフランス語教育は単なる文法学習で終わってはならないと考える教師たちがいる。ニコール・ブロンドーは、かつて征服者が押し付けたフランス語を(旧)被植民地国の作家たちが社会的束縛への個人の抵抗・解放のための媒体へと発展させたことに強い敬意と共感を抱いており、その誰にとっても自己表現のツールになり得るフランス語で思考表現するよう、学生たちを励ます。移民への社会的差別がその次世代まで含めた高い失業率を招いているフランスでは、郊外で孤立する移民子弟や外国人を治安悪化やテロの原因と宣伝する極右も勢力を伸ばしているが、ニコールのクラスでは様々なルーツを持つフランス人と外国人が一緒に議論しながら、自らの洞察力と言葉を研ぎ澄まし、発言する市民へと誰もが成長していく。ニコールの教え子、アルジェリア出身のフェルージャ・アルアーシュもまた、学生たちに言語の壁を越えて考えを話すよう求める。その様子や彼女の生き方は、異なる文化を持つ人々が「共に生きる」ことで得られる充実感を周囲の人々に感じさせる。

 2013年に彼らの講座でフランス語を学んだ私は、数年後、敬愛する恩師たちを撮りたいとカメラをもって古巣に戻った。2019年にフランス政府はヨーロッパ圏外の外国人学生の授業料を16倍に値上げする方向に舵を切ったが、この政府決定を拒否した約50の大学においてのみ、大学授業料ほぼ無料の国際的ユートピアが現在も保たれている。「多数派が勝つだけの民主主義ではなく、少数者の声が届く民主主義」の源流を届けることができたら幸いである。


- ニシノマドカ

2009年に演劇を学ぶためにフランスに留学。2015年にドキュメンタリー映画に活動の軸を移す。パリ第8大学の映画学部在学中、映画作家アンリ=フランソワ・アンベールと、クレール・シモンに師事。またオランダのヨハン・ファン・デル・コイケンの作品から多くの影響を受ける。第1作『クロビスとの出会い ― 音楽症候群を生きる』(2016)ではパリのある音楽家の魅力を人形アニメーションを交えて描く。本作は第2作目にあたり、現在仏語をゼロから学ぶ若者たちと教師の1年を追った第3作目を編集中であり、フランスのプロダクションと組み映画館公開を目指している。また第4作目を日本で撮影中。フランスで肌で感じた、植民地主義などの負の歴史を正視しつつ、各国から来た人びとと作る多文化社会のポジティブなエネルギーを糧にして、多様な社会と個人を理解するための視点を追究している。