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ヤマガタ・ラフカット!



このプログラムは、作品に満たない短い映像を上映し、世界中から映画祭に集う人たちとともに見て、感じ、語り、聞く場を作ることを目的としている。荒々しく削りだした世界の断片(ラフカット)を頼りに、制作者、観客、批評家、研究者など、あらゆる立場の人びとがジャンルを超えて交わる場から、映像と世界との新しい関わりを模索する試みである。



いま、「見る」ことを問うこと

 「ラフカット」とは、映画や映像作品が完成する前の粗編集版(未完成)の状態を指す言葉です。「ヤマガタ・ラフカット!」では、映画の「作品」という枠組みを一度ほどき、映画祭に集うあらゆる人びとが、立場、ジャンル、国境を越えた「映像そのもの(フッテージ)」との「対話」の場の可能性を模索します。

 今年は新型コロナウイルスの世界的な蔓延を受け、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021はオンライン開催となりました。2011年から始まり10年目となるこのプログラムは、「見る」ことと同等に、またはそれ以上に「話す」ことを大切にしてきました。目の前に映し出される映像をそのままの現実として受け入れ、そこから感じたこと、思ったこと、考えたことをゆっくりと言葉にしていく。言葉にならずとも他者の言葉を聞き、考え続けることで、映像を見るという個人体験から、思考を少し外側に広げることができると考えるからです。

 しかし、それは会場で同じ時間と空間を共有することに支えられてきました。バーチャルな時間と空間で未完成のプロジェクトを上映することは危険で、またそれについて丁寧に対話を積み上げることはとても困難です。今回の「ヤマガタ・ラフカット!」はオンライン上で人数を限定したクローズドな場での対話を行います。

 私たちはコロナ禍で多くのものを失いました。実地開催の映画祭もそのひとつです。この度のオンライン開催という形に疑問を持つ方も非常に多いことでしょう。しかし、このような状況だからこそ、映像と世界の関わりが、かつてないほど問われています。

 私たちすべての参加者一人一人の想像力によってどんな体験を作り出すことができるのか、それはこの映画祭全体への問いなのかもしれません。

 前回同様に、ひとつのフッテージを、対話の前と後、2回上映します。対話を通し、ひとつのフッテージを違う映像体験に変えていくことで、「見る」ことも積極的に映像に関われると考えます。

 国内2本、アジア2本のラフカットを上映し、同時通訳で対話を行います。多様な言葉が飛び交う対話の場にご参加ください。

酒井耕、渡邉一孝(プログラム・コーディネーター)