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[レバノン、ハンガリー]

それは竜のお話

It's Just Another Dragon

- レバノン、ハンガリー/2020/アラビア語、ハンガリー語/カラー/デジタル・ファイル/16分

監督、撮影、編集、録音:タイムール・ブーロス
出演:エリカ・ハヨーシュ
製作:DocNomads Joint Masters Degree
提供:タイムール・ブーロス

20年ほど前にトランシルヴァニアから、ここにやってきたハンガリーの女性ストーリーテラー、エリカ。つい最近レバノンからこの地にたどり着いた男性の若手映像作家は、彼女の語りに耳を傾け、それまでの旅路を実際に追体験しながら、映像を拾い集める。故郷を離れた理由、味わった経験や思い。お姫様、お城、竜、騎士、妖精、王様、決闘、毒きのこ、魔術師、昔々のハンガリーの民話に触発されながら、それぞれが物語を持ち寄り、互いの胸に言葉を預け、交歓しながら、映像を紡ぎだしていく。(WM)



【監督のことば】エリカと会ったのは2020年の5月。その家はバスを2本乗り継ぎ、ブダペスト市内を通って真反対の外れのところに位置していた。彼女がまず話してくれたのは、娘のヴィラーグを寝かしつける間に話し聞かせていた物語をもなぞるうちに自分はいつの間にか語り部になっていた、ということだった。やがて年月を経て、成人したヴィラーグもまたいま語り部を実践しているのだという。私はそれを聞き、自分が映画を作るようになったきっかけのことを思い浮かべた。私自身もやはり、物語を聞きそれを語ることの楽しさを母から教わっていたのである。私がエリカとすぐに通じ合えたのは、おそらくこうした共通点があったからなのだろう。

 エリカはさっそくハンガリー民話を集成した資料を貸し与えてくれたのだが、ひとつひとつ見ていくとどうも、どの物語も奇妙なことに故郷を追われた体験について語られているらしい。それから2、3日して彼女から連絡があり、ハンガリー南部セゲトの近郊で民話を語る会があるから一緒に来ないかと招待を受けた。彼女がトランシルヴァニアからブダペストに出てきたのは1998年――私が生まれた翌年――のことだったと聞かされたのはその旅の道中だが、これも私との強い共鳴を示す事実だった。私もやはり、社会の不安定化が深刻なレバノンから移り住んできたばかりだったのだ。

 エリカと話すと、なぜだか未来の自分と話しているような気になった。彼女の物語と私自身の物語のあいだには、つねにこだまがいくつも響いていた。ふたりの物語を織り交ぜるのが自然と感じられたのはそのためだ。ふたりの出会いを讃えるにはそれが適切な方法のような気がしたのだ――つまり、移動について、そして物語によって私たちが救われうるその道筋についての映画を作ることが。


- タイムール・ブーロス

1997年生まれ。エラスムス・ムンドゥス共同修士プログラム「DocNomads」修了。当プログラムを活用してヨーロッパへ渡航し、ポルトガル、ハンガリー、ベルギーの各国で映画を制作。これまで制作した短編ドキュメンタリーに『Anything Can Happen Now』(2020)、『A Package and a Crane』(2020)、『Sounds of Weariness』(2021)、『Encounters On An Uncertain Spring』(2021)などがあり、その作品は、作家自身の内奥の経験と彼が外界で出会ったものとが交叉する地点にある。