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審査員
ランジャン・パリット


-●審査員のことば

 今から10年前、私は『イン・カメラ』という映画を撮り、そのなかでこう語った――100本のドキュメンタリーを撮り、他者の人生をフィルムに収め、そして娘が家を出た今、私は自分の人生が私を素通りしていくように感じている。そろそろ私自身の物語を語ってもいいのではないだろうか?

 そして10年後、私が撮る『Lord of the Orphans』は、純粋な長編映画になるだろう。これはチャンダンナガル(当時はシャンデルナゴル)のバジュラに暮らすパリット家(私の家族)の一代記であり、ひとつのドキュメンタリー的瞬間が含まれる。シャンデルナゴルは、インド独立以前、フランスの植民地だった土地だ。この映画は、私の家族が5世代にわたり、ブラーミンの司祭に土地を奪われ、呪いをかけられてきたいきさつを語る。タイトルは曾祖父の名前であるアナント・ナートから取った。これは「孤児たちの王」という意味だ。

 私が思うに、人はみな孤児のようなものだ。この世界を飛び回り、そして次の世界、地下の世界へと滑り込む。フアン・ルルフォの小説『ペドロ・パラモ』のように、私たちはそこで幽霊になる。私はまた、クシシュトフ・キェシロフスキと同じように、人間の命は互いにつながっているとも感じている。我々が存在するこの均衡のなかで、それぞれの通る道が、次の道に影響を与える。自分では前に進んでいるつもりでいるが、実はただ止まっているのだ。

 現在私は、これらのテーマのいくつかを映画のなかで探求し、ドキュメンタリーとフィクションの境界を曖昧にしようと試みている。


ランジャン・パリット

映画界で35年のキャリアがあり、撮影監督、監督、プロデューサーとして映画制作に携わる。撮影監督としては、『Bombay, Our City』(アナンド・パトワルダン監督)、『予言の夜』(アマル・カンワル監督、YIDFF 2003)、『稲妻の証言』(同、YIDFF 2009)、『Jashn-E Azadi』(サンジャイ・カク監督)、『マーヤーのために』(ヴァスダー・ジョーシー監督、YIDFF '99)、そして6時間に及ぶ『CzechMate: In Search of Jiri Menzel』(シヴェンドラ・シン・ドゥンガルプル監督)など、100以上のドキュメンタリーを撮影。また、リチャード・ギアが製作に関わった『Dreaming Lhasa』、ボリウッド映画を代表するヴィシャール・バルドワージ監督の『Seven Sins Forgiven』など15本の長編フィクション、それに約250本のコマーシャルも撮影している。プロデューサー、監督としては、BBC、YLE(フィンランド国営放送)、SBS(オーストラリア公共放送)のための『Forever Young』、インドのPSBTのための『イン・カメラ』など12本のドキュメンタリー、それに5本の短編に携わっている。現在、監督、撮影監督、プロデューサーとして初の長編映画を編集中。インドのナショナル・フィルム・アワードで4度受賞(うち3度は右派の不寛容に抗議して賞を返還)、2度のムンバイ国際映画祭ゴールデン・コンチ賞を獲得。シティ・オブ・フライブルク、ユネスコ賞、ミュンヘン、ジュネーヴのヴァレー賞など、数々の国際的な賞を受賞。インド全土の映画学校で客員講師を務め、バークレー、オースティン、ヘルシンキ、釜山、ジョグジャカルタ、台北など、世界各地で撮影とドキュメンタリー映画制作を教える上級コースで教鞭を執る。インド国内の複数の映画祭や、昨年12月に開催されたジョグジャカルタ・ドキュメンタリー映画祭(FFD)で審査員を務めた。



イン・カメラ

In Camera

- インド/2010/英語、ベンガル語、オリヤー語、カシミール語/ カラー/Blu-ray/79分

監督、脚本、撮影、ナレーション:ランジャン・パリット
編集:タルン・バールティーヤ
録音:スルジョ・デーブ
製作:ラージーブ・メヘロートラ
製作会社:Syncline Films
提供:Public Service Broadcasting Trust
www.psbt.org

YIDFFでも上映されているアナンド・パトワルダン、アマル・カンワルら数々のインドのインディペンデント・ドキュメンタリー作家たちと仕事をしてきた撮影監督のパリットが、25年にわたる撮影の仕事を自らの監督作品も交えて振り返る。彼の記憶に取り憑いてしまった風景や人々の生活。控えめなカメラは各地を再訪し、過去と現在の映像が混じり合い、その境目は曖昧なまま時間が繋がっていき、その場にいた自身の立ち位置をも問う。路上で声を上げる民や伝統文化への熱い思いと交差する私的な視線が、ひとつの現代インド・ドキュメンタリー史としても立ち上がってくる。