航跡(スービック海軍基地)
Wake (Subic)-
アメリカ、フィリピン/2015/ 英語、タガログ語/カラー/DCP/277分
監督、撮影、録音:ジョン・ジャンヴィト
編集:ジョン・ジャンヴィト、エリック・P・ガリヴァー
音楽:ラヴ・ディアス、ブラッドフォード・クリーガー、テオフィロ
ナレーション:キャロリン・フォーシェ
製作会社、提供:Traveling Light Productions
ルソン島スービック湾にあった米海軍基地は、1991年のフィリピン上院決議に基づき、フィリピンに返還された。しかし、長く米軍管理下にあった湾周辺は、基地返還後も残留化学物質や重金属類、石綿、PCBなどに起因する深刻な環境汚染被害をもたらし続けている。YIDFF 2011上映の『飛行機雲(クラーク空軍基地)』に続く本作は、10年以上に及ぶ調査により、公害に苦しむ住民の実態をまざまざと描き出すとともに、住民たちを支援し、被害を告発するNGOの活動を共感をもって追いかける。スペイン、アメリカによる植民地支配の下での人々の苦難と抵抗、弾圧の歴史を凝視し、人々の声に耳を傾ける稀有な映像体験。
【監督のことば】2006年夏、私はボストンを飛び立ち、初めてマニラを訪れた。渡航の目的は、劇映画のための取材だった。映画のごく短い一部を、フィリピンで撮ろうと考えていたからだ。しかし、現地に着いて最初の数日で経験したことをきっかけに、フィクションを撮るという計画は完全に消えた。それから私は、米軍基地の跡地で暮らす多くの人々が今も直面している苦難を世界に伝えるため、長年にわたる作業に取り掛かることとなった。フィリピンのクラーク空軍基地とスービック海軍基地があった周辺では、汚染物質による環境破壊が現在も終わっていない。
この『航跡(スービック海軍基地)』は、ドキュメンタリー二部作『For Example, The Philippines(たとえばフィリピンでは)』の後編にあたる。前編の『飛行機雲(クラーク空軍基地)』は2010年に公開された。二本合わせて9時間に及ぶこのドキュメンタリーは、米軍基地の跡地における環境汚染問題を軸に、歴史の忘却、植民地支配、野放しの軍国主義がもたらす結果といった問題を考察している。シネマ・ヴェリテの手法と、フィリピン人被害者やその家族、環境活動家、地域の活動家に実際にインタビューした映像を織り交ぜつつ、米比戦争の時代の古い写真、パルチザンの歌、歴史資料、風景写真を組み合わせたふたつの映画は、いずれも、この人道・環境危機の実態と、その解決策の複雑さが理解できるような作品を目指している。
1956年、ニューヨーク市スタテン島に生まれる。映画監督、キュレーター、教師。長編フィクション作品には『The Flower of Pain』(1983)、『The Mad Songs of Fernanda Hussein』(2001)があり、後者はブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭審査員特別賞、第1回ローザ・ルクセンブルク賞、ニューイングランド映画&ビデオ祭最優秀インディペンデント映画賞を受賞。またドキュメンタリーでは、全米映画批評家協会による年間最優秀実験的作品賞、アントル・ヴュ(ベルフォール国際映画祭)長編ドキュメンタリー賞等を受賞した『Profit Motive and the Whispering Wind』(2007)、『飛行機雲(クラーク空軍基地)』(2010、YIDFF 2011)、共同監督作の『アフガニスタンから遠く離れて』(2012、YIDFF 2011、2013)などがある。書籍『Andrei Tarkovsky: Interviews』(ミシシッピ大学出版局)の編集を担当し、またハーバード・フィルム・アーカイヴでキュレーターを5年間務める。これまでウィーン国際映画祭、イ・ミッレ・オッキ映画祭、シネマ・デュ・レールで監督作の回顧上映が行われた。