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カーキ色の記憶

A Memory in Khaki

- カタール/2016/アラビア語/カラー/DCP/108分

監督、編集:アルフォーズ・タンジュール
脚本:アルフォーズ・タンジュール、ルアイ・ハッファール
撮影:アフマド・ダクルーブ
作曲:キナーン・アズメ 
作劇:アリ・アルクルディ
アート・アドバイザー:アラシュ・T・リアヒ、リンダ・ザフラ
エグゼクティブ・プロデューサー:ルアイ・ハッファール
製作主任:イヤード・シハーブ
提供:ルアイ・ハッファール

「ここでなければ私はわたしではない」――。監督アルフォーズ・タンジュールが敬愛する作家イブラーヒーム・サムイールは、かつてダマスクスへの愛をそう語った。何年か後に、彼は愛したダマスクスを去った。イブラーヒームをはじめ、作品には4人の人物が登場し、故郷に対する複雑な思いを語る。ある者にとって、故郷はカーキ色に象徴される抑圧的な世界であり、またある者にとっては赤く染まった暴力的な世界である。この映画で監督は、生まれ育った場所を失うことへの例えようもない感情を描く。その苦い悲しみの表現は、観る者の心を捉え易々と離さないだろう。



【監督のことば】私はイメージと、物語と、夢が好きだ。この知的で想像力に富む組み合わせは、長い時間をかけて現実を観察することから生まれる。

 映画はイメージを用いて独自の世界を語る。その絵画的な表現は、夢を表現することに似ている。フェリーニの言葉を借りれば、「夢は唯一の現実」だ。

 私は1970年代に生まれた。父親は共産主義者だった。当時のシリアのサラミーヤ――詩と、砂漠の乾いた空気と、マルクス主義の伝統を持つ街――では、それは普通のことだった。私自身は、バース党の集会に参加したことは一度もない。というよりも、いかなる政党の集会にも参加したことはない。私はいつも集会から逃げていた。そして街の小さな映画館に行くこともあったが、たいていはチェーホフやトルストイを読みふけっていた。私はゾルバとマルケスに感化された。ボードレールとヘルマン・ヘッセに夢中になった。私にとって読書は、現実から逃避できる美しい世界だった。当時の私は、これがきっかけとなって映画を学ぶことになり、真実を追究したいという強い思いが生まれるとは予想もしていなかった。

 この映画の制作中に、私の身に起こった一番の驚きは、私自身がオーストリアに難民申請をしたときのことだ。祖国シリアでは毎日のように多くの人が殺されているのに、自分がこうして外国にいるのが信じられなかった。それは心に大きな傷を残すだけでなく、人道的な意識の面でもつらい体験となった。私はその思いから、弱さと戦うためにもこの映画を作ることにした。映画を作ることで、亡命、恐怖、それにもしかしたら郷愁に、正面から向き合うことを求めていた。

 私はこの映画で、抑圧的なシリア政権下で生きる人たちの魂の叫びを届けたかった。長年にわたる沈黙、恐怖、暗い牢獄に光を当て、シリアで起きたこと、今でも起きていることのルーツを探りたかった。シリア社会の爆発を引き起こし、革命のきっかけとなった出来事の数々だ。

 この映画は、さまざまな人々の物語を描いている。彼らは自分の身に降りかかる現実を運命と受け止め、日々生き残るために戦い、想像の中だけに存在する小さな勝利を喜び、そして多くの敗北、失望、苦悩を経験する。

 この映画はシリアの物語だ。過去を提示し、そして未来を語っている。


- アルフォーズ・タンジュール

1975年シリア生まれ。モルドバ芸術アカデミー映画監督コースで学び、2004年に卒業。以来、『The End of a Red Balloon』、2008年カルタゴ映画祭でブロンズ・タニト賞、2009年モンス国際映画祭(ベルギー)で審査員特別賞を獲得した『A Little Sun』をはじめ、多くの短編映画を監督。また、『Damascus . . . Symphony of a City』『Black Stone』『Cola Bridge』『Outside the City's Walls』『Faraway, So Close to the Homeland』、そして2013年アルジャジーラ国際ドキュメンタリー映画祭で民衆の自由と人権賞、2014年国際ゴールドパンダ賞(中国)ベストプロダクション賞を獲得した『Wooden Rifle』をはじめ、ドキュメンタリー映画も多数監督。現在、初の長編劇映画の撮影準備を進めている。