審査員
アナンド・パトワルダン
●審査員の言葉
山形は今でも私の好きなドキュメンタリー映画祭のひとつなので、今年審査員を務めることは光栄に思う。光栄と言ったが、必ずしも楽しみとは言えない。それは映画のクオリティが例年どおり高いであろうから、その中から限られた作品に賞を与えるというのは苦痛ともいえる作業だからだ。多くの意味で、映画祭で受賞するというのはくじ引きのようだ。なぜならそこには多くの変数が存在するからだ。受賞するであろう映画作家たちの価値を下げるために言っているのではなく、受賞はしないかもしれない作家たちを励ますためにそう言いたい。私はこの細くて恣意的な境界線の、どちら側にも立った経験があるからだ。
私が好きな映画というのは、必ずしも自分なら作ろうと思う映画ばかりではないが、これなら観客に見せたい、と確信できる映画である。そのような映画は、私たちをより人間らしくしてくれると感じる。私が映画をつくる時、また鑑賞する時、私は観客の視点を心に抱くが、必ずしも映画通や映画祭の常連たちに合わせてはいない。ハリウッドやボリウッド映画、そしてスターチャンネル、ソニー、CNNに洗脳され傷つけられた普通の、そこら辺にいる観客のことを考える。そしてこういう混乱を通り抜け、単純化せずに分かりやすい言語でなにか大切なことを伝える作品に出会った時、私は身震いを覚える。
アナンド・パトワルダン
1950年生まれ。1970年、ボンベイ大学で英文学の学士号、1972年(米国)ブランダイス大学で社会学の学士号を取得。1982年(カナダ)マギル大学でコミュニケーションの修士号取得。1970年から72年にかけて、ベトナム反戦運動にかかわる。1972年、シーザー・チャベス連合農場労働者組合にボランティアとして参加。1972年から74年はキショール・バーラティーと称するインド中部地方の開発と教育のプロジェクトに、またその他市民の自由や民主的権利を求めた運動に関わる。主な作品に、カナダでインド系移民の農場労働者が労働組合を組織する様子を描いた『A Time to Rise』(1981)、スラム居住者についての『Bombay Our City』(1985)、パンジャーブでの宗派間調和の再建を描いた『In Memory of Friends』(1990)、ヒンドゥー原理主義の高揚を題材とした『神の名のもとに』(1992、YIDFF '93 市民賞受賞)、家父長制にルーツを辿るインドでの暴力を描いた『父、息子、聖なる戦い』(1995、YIDFF '95 特別賞受賞)がある。『ナルマダ・ダムの5年』(1996)と『戦争と平和』はいずれも地球環境映像祭でアース・ビジョン大賞を受賞。 |
戦争と平和 ― 非暴力から問う核ナショナリズム
War and PeaceJang aur Aman
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インド/2002/英語、ヒンディー語、日本語/カラー/ビデオ/166分
監督、脚本、撮影、編集、ナレーター、製作:アナンド・パトワルダン
録音:シーマンティニー・ドゥル、モニカ・ワヒー、ヴィピン・バティ
音楽:ナトゥ・カーン、ジュヌーン、プラタープ・シン・ボーラーデー、他
提供:アース・ビジョン組織委員会事務局
URL: www.patwardhan.com
3年以上もの騒然たる年月に、インド、パキスタン、日本そして米国で撮影された本作は、世界的軍国主義や戦争に立ち向かう平和活動を追った、壮大なドキュメンタリーの旅である。インド亜大陸での核実験に歓声が沸く、そんなぞっとするシーンに誘発されたこの作品は、ガンジーの暗殺という出来事が底流を形成している。ガンジーの死から50年が経った今、ガンジーの記憶はまるで存在しなかった蜃気楼のようだ。それは私たちの平和への渇望と、それとはかけ離れている実態によって作られている。
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