English

また一年

Another Year
又一年

- 中国/2016/中国語(湖北方言)/カラー/DCP/181分

監督、編集:朱声仄(ジュー・ションゾー)
撮影:楊正帆(ヤン・ジョンファン)
録音:欧徳健(オウ・ドージェン)
製作会社:Burn The Film Production House
配給:Torch Films

中国のとある出稼ぎ労働者家庭における食卓風景を13の章立てにより描き出す圧巻の3時間。長回しの定点カメラで撮影された食卓では、家族間の歯に衣着せぬ会話が展開される。その切り取られた時間の中で、観る者は、どこにでもある日常がふとした瞬間に、神秘的で美しい絵画的空間へと変質するのを目撃する。故郷の山村の家と、都会の借家を往復しながら暮らす、三世代からなる一家。彼らが直面するさまざまな問題から、極端な都市化の波と経済成長著しい中国社会の実相がほの見える、一年にわたる時の流れの記録。



【監督のことば】ある人間が一年間で少しずつ変化していくとして、その変化はどのようなものだろうか? ある人間が体験する些事や微細な瞬間は、その人の生活をどのように形作るのだろう? 『また一年』の制作に際して私が考えていたのは、ありふれた出来事の集積が持つ力を吟味し、時の流れによっていかに何でもないことが美しく、また謎めいて見えてくるのかを明らかにしよう、ということである。

 私がはじめてこの出稼ぎ労働者の一家に出会ったのは、2002年の夏、武漢でのことだ。彼らの置かれた状況は、私に文字通り衝撃を与えるものだった。三世代六人家族が、20平米にも満たない狭苦しいワンルームで、プライバシーの欠片もなく共同生活を送っていたのである。寝室と居間とダイニングを兼ねたこの部屋では、年長の娘が寝台で宿題をこなす姿もときおり見受けられた。食卓を囲む際によく諍いが起きることにも気づいたが、何より私の心をとらえたのは、そこで交わされるとりとめのない会話や顔の表情、身振り、家族関係の変動である。生活のなかで生じるこうしたささやかな細部こそが、彼らという存在を明確に示している。もっぱら家族の食卓風景だけが撮影される映画を作ろうと決めたのは、そうした私の実感があってのことだったのだ。

 春節に始まり、「除夕」(旧暦の大晦日)で終わりを迎えるまで、すべての食事は静的な長回しでリアルタイムに進行していくが、そこには、都市社会の片隅で暮らす一家の生活のリズムが表れている。低収入と中国の戸籍登録制度(=戸口)のために、この家族の生活は全く安定せず、いともたやすく瓦解してしまうような状況にある。じっさい祖母が倒れた後、一家は別居を余儀なくされている。母は都市部で医療を受けられない祖母に付き添って田舎に戻らねばならず、年長の娘も、まだそんな年齢ではないにもかかわらず、一家を支えるために学校をやめ、職探しをするように言われてしまう……。この一家にとって「また一年」とは、未来であり希望であるのだが、それでも、解決できない問題や和らぐことのない痛みは、いまだに残されている。


- 朱声仄(ジュー・ションゾー)

1987年、中国・武漢生まれ。写真家として世に出た後、2010年に楊正帆(ヤン・ジョンファン)とともに「Burn The Film Production House」を設立。『Distant』(2013)、『Where Are You Going』(2016)といった楊作品の撮影と制作を担当しつつ、2014年には、移民の子どもを対象とした参加型写真ワークショップを取材した『Out of Focus』で監督デビュー、同年フランスのシネマ・デュ・レールでプレミア上映を果たす。長編ドキュメンタリー第二作となる本作は、プレミア上映されたスイスのヴィジョン・デュ・レールでインターナショナル・コンペティション最優秀長編作品賞「金のセステルス」賞、モントリオール国際ドキュメンタリー映画祭(RIDM)で大賞をそれぞれ獲得。さらにカナダの『24 Images Magazine』誌において、2016年の年間ベスト10に選出されている。