ニンホアの家
A House in Ninh HoaEin Haus in Ninh Hoa
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ドイツ/2016/ヴェトナム語/カラー/DCP/108分
監督、撮影、編集:フィリップ・ヴィトマン
脚本:フィリップ・ヴィトマン、グエン・フオン・ダン
演出:グエン・フオン・ダン
録音:カースティン・クラウザ
音響:フォルカー・ツァイガマン、シモン・バスティアン
製作、作劇:メルレ・クレーガ、フィリップ・シェフナー
製作会社、提供:pong film GmbH
固く閉じられた窓、人気のない廊下、使われてない家具――ヴェトナム南部ニンホアにある家は、かつてそこに暮らし、ヴェトナム戦争で離散した家族の記憶を抱く。鶏の鳴き声、水田の手入れといった穏やかな日常が営まれる「家」と、もう一軒の新しい「家」。死者に呼び寄せられるかのように、ドイツとヴェトナムに離れていた一家は、長い時を経て二つの「家」で再会し、故人の手紙、昔の写真、霊媒師による降霊といった不在者の断片を拾い集める。3世代にわたる「家の記憶」が紡ぎ出す家族の物語。
【監督のことば】『ニンホアの家』は、ある移民の家族の歴史を、故郷に残った者の視点から描いている。その視点と同様、製作チームとしての私たちの位置づけも特殊なものだった。すなわち、私とグエン・フオン・ダンは、家族集団の中の異物として、そして同時に、異なる生活を送るドイツの親戚の代表者として、国を超えた家族の壊れやすい共同生活に目を向ける。ただ、初めてヴェトナムを訪ねた2005年当時から、私の非力な状況は少しも軽減されなかった。というのも、私は常に言葉を翻訳してもらう必要がありながら、しかし映画の言語へ翻訳する者でもあったから。
『ニンホアの家』で私たちは、ドキュメンタリーの分野における実験的なアプローチとして、俳優ではない人々による演劇的な手法を試みた。すなわち私たちは主人公である女性たちとともにドラマツルギー的、内容的な枠組みを設け、その枠内においてカメラの前で即興的に日常生活が行われるという方法を採った。
その際、日常生活からひとつの核となる部分が抽出され、言葉にならない、わずかに示唆される一族の歴史の一部が、徐々に追体験できるようになるのである。必然的に私たちは、作劇上のクライマックスなどは放棄することとなった。物語は、家族の生活という水面に、ほとんど気づかないほどの波しか発生させないからだ。
この家の中で時間は循環しているように見え、過去や未来へ向かう印象を与えるものはほとんどない。聞こえてくるさまざまな言葉――日々の対話、過去の手紙の朗読、ひそやかな愛国主義者Tiepからの報告書を読む声、電話、村の役場の社会主義的なラジオのお知らせ――こうしたさまざまな声が、遠くかけ離れた時間や場所、そこに属する人々の間の記憶を呼び覚まし、ひとつの断片的な物語へと結合されていく。
1975年と2014年。ニンホアとボン。ヴェトナムとドイツ。生者の世界と死者の世界。これらの呼び起こされた記憶の弾道の一部を、飛行機であり、原付バイク、電車、手紙、写真、電話、供え物、死者の夢、死者との対話などが担っているのである。
1980年、西ベルリン生まれ。ハンブルク大学で文化人類学、ハンブルク美術大学でヴィジュアル・コミュニケーションの学位をそれぞれ取得。2016年よりブラウンシュヴァイク芸術大学の研究支援プログラム「The Photographic Dispositif」のメンバーに名を連ねている。彼のフィルムやビデオによる映像作品は、ウェクスナー芸術センター、メディアアートビエンナーレWRO、ベルリン国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭、ニューヨーク映画祭、サンパウロ国際映画祭、マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭、コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭、ヴィジョン・デュ・レールなど、世界各地のアートスペースや映画祭で上映されている。2014年から16年までは、アカデミー・シュロス・ソリテュード(シュトゥットガルト)、ヴィラ鴨川(京都)、シュリシュティ・インスティテュート・オブ・アート・デザイン・アンド・テクノロジー、ゲーテ・インスティテュート・バンガロール(ともにインド)、ライトコーン・アトリエ105(パリ)といった施設にアーティスト・イン・レジデンスとして滞在した。