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私はあなたのニグロではない

I Am Not Your Negro

- アメリカ、フランス、ベルギー、スイス/2016/英語/カラー/DCP/93分

監督:ラウル・ペック
撮影:ヘンリー・アデボノジョ、ビル・ロス、ターナー・ロス
編集:アレクサンドラ・シュトラウス 
テキスト:ジェームズ・ボールドウィン
ナレーション:サミュエル・L・ジャクソン 
アニメーション:ミシェル・ブラスタイン
録音:ヴァレリー・ル・ドクトゥ、ダヴィッド・ジラン 
音楽:アレクセイ・アイギ
製作:レミ・グレレティ、ラウル・ペック、イベール・ペック
製作会社:Velvet Film, Inc.、Artémis Productions、Close Up Films
配給:ICM Partners、Wide House
配給、宣伝(日本国内):株式会社マジックアワー

アフリカ系アメリカ人作家、ジェームズ・ボールドウィンの未完原稿「リメンバー・ディス・ハウス」をもとに、暗殺された3人の活動家――メドガー・エヴァーズ、マルコムX、キング牧師――の軌跡を通して、アフリカ系アメリカ人の激動の現代史を紡ぎ出す。ボールドウィンのテレビでの発言や講演などの映像を軸に、映画や音楽の記録映像を交えながら、法的な平等が達成された後も、差別の本質は不変であることが浮き彫りにされる。ハイチ出身の監督ラウル・ペックが長年温めてきた企画で、ナレーションを俳優のサミュエル・L・ジャクソンが務めている。



【監督のことば】私がジェームズ・ボールドウィンを読み始めたのは、まだ15歳の少年だった頃、すでにハイチを出て、のちにコンゴやフランス、ドイツや米国へと自分を導くことになる放浪生活で直面していたさまざまな矛盾を、合理的に説明してくれるものはないかと探していた時のことだった。彼は、その名に「私の」と付すことのできた数少ない作家のひとりだった。そうした作家の語っていた世界は私の知る世界と同じであり、その世界の私は、ページの端に出てくるだけの脇役ではなかった。彼らが語っていた物語の歴史の描き方、構造や人間関係の定義づけは、私が自分の周囲で見ていたものと一致していたのである。

 メドガー・エヴァーズは1963年6月12日に死んだ。マルコムXが死んだのは1965年2月21日、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの死は1968年4月4日のことである。5年のあいだに、3人の男が暗殺された。

 3人とも黒人だが、彼らを結びつけていたのは肌の色ではない。それぞれ異なる戦場で、それぞれ異なる戦いをしていたのだが、最後にはみな危険人物とみなされ、したがってその命も、いかように処理してもよいものとされた。なにせ彼らは、人種をめぐる問題を覆っていた靄を、取り除こうとしていたのだから。

 ジェームズ・ボールドウィンもまた、彼らのようにこのシステムを見抜いていた。しかもこの3人とは知人であり、友愛で結ばれていた。

 メドガーとマルコム、マーティンを結ぶ複雑なつながりと類似点がどういうものだったかを突き止めようと決心した作家は、3人についての本を執筆する計画を立てていた。彼は自身の集大成となる本を書くつもりで、『リメンバー・ディス・ハウス』を書いていた。

 私が3人とその暗殺について考えるようになったのは、ずいぶん後になってのことだ。しかし、この3つの事実、歴史の一部となったこれらの出来事は、私自身の政治的文化的な思いこみや、私自身が体験した人種差別や精神的暴力について、深く自分の内面に潜り込んで考えるための出発点となっている。いうなればそれは、そうした省察のための「証拠」である。

 だからこそ私には、ジェームズ・ボールドウィンが本当に必要だった。彼は私に声を与え、言葉を、レトリックを授けてくれたのである。


ラウル・ペック

ラウル・ペックは、『The Man by the Shore』(1993、同年のカンヌ映画祭コンペティションに出品)、『ルムンバの叫び』(2000、同年のカンヌ監督週間で上映、米HBOが放映権を購入)といった劇映画のほか、HBO制作のテレビ映画『ルワンダ 流血の4月』(2005、同年のベルリン国際映画祭で上映)や『Moloch Tropical』(2009、09年トロント映画祭、10年ベルリン映画祭で上映)、『Murder in Pacot』(2014、14年トロント、15年ベルリンの両映画祭で上映)では監督・製作を兼任するなど、多彩な顔を持つ。ドキュメンタリーとしては、『Lumumba, Death of a Prophet』(1990)、『Desounen, Dialogue with Death』(1994、BBCで放映)、『Fatal Assistance』(2013、ベルリン映画祭やホットドックス2013で上映)などの作品がある。 2002年のベルリン映画祭、2012年のカンヌ映画祭では審査員を務め、現在はフランス国立映画学校の会長職に就いている。世界各地で数多くの回顧上映が開催され、2001年にはヒューマン・ライツ・ウォッチよりアイリーン・ダイアモンド特別生涯功労賞が贈られている。長編最新作『The Young Karl Marx』(2017)は、第67回ベルリン国際映画祭でプレミア上映された。