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ラスト・タンゴ

Our Last Tango
Un tango más

- ドイツ、アルゼンチン/2015/スペイン語/カラー/DCP/85分

監督、脚本:ヘルマン・クラル
撮影:ヨー・ハイム(BVK)
編集:ウルリケ・トルトラ 
録音:セレステ・パルマ
音楽:ルイス・ボルダ、セクステート・マジョール
製作会社:Lailaps Pictures GmbH
配給:Wide House
配給(日本国内):ニューセレクト株式会社 www.new-select.jp

アルゼンチン・タンゴの魅力を世界に知らしめた不世出のダンスペア、マリア・ニエベス・レゴとホアン・カルロス・コペスの軌跡を辿ったドキュメンタリー。現在のふたりの証言から、彼らの歩んだ半世紀を越える愛と葛藤の歴史を、華麗なダンスで再現する。マリアと、ペアを演じる若きダンサーたちとの会話を挿入しつつ、官能的にして情感に満ちたタンゴ・ダンスの魅力が映像に焼き付けられる。



【監督のことば】映画の本当の始まりはどこか? スクリーンにフェードインする瞬間のことを言っているのではない。映画のアイデアが形になる瞬間のことだ。

 いったいいつ映画は産声を上げるのか。

 私は鮮明に覚えている。ブエノスアイレスでマリア・ニエベスと初めて会ったときのことを。あれは夜更けで、彼女はミロンガの外で煙草を吸っていた。タンゴの映画を撮ろうと思っているので、ぜひお話が聞きたい――私はそう話しかけた。彼女は、いつもと同じで優しく、チャーミングだった。そして2日後に彼女の自宅で会う約束をしてくれた。

 私は鮮明に覚えている。彼女の家のソファに座り、話しはじめてからわずか30秒で、マリアを撮らなければと思ったことを。

 私は鮮明に覚えている。彼女と出会ってから何日か経ち、今度はホアン・カルロス・コペスの自伝『Quien Me Quita Lo Bailado(踊ったダンスは奪われない)』と出会ったときのことを。本のページをめくりながら、ふたりとも映画に出るべきだという考えが頭から離れなかった。マリアとホアン――史上最高のタンゴペアを!

 それから何年かが経った。映画の制作は平坦な道のりではなかった。ときにすばらしく、ときに難しく危険な旅であった。

 この旅の間、非凡な芸術家たちと出会い、ともに働くことができた。誰よりもまずマリアとホアンだが、他にも渾身の踊りを見せてくれたダンサーや振付師たちがいる。さらに優秀な撮影クルーにも恵まれた。皆、映画を愛していて、この作品を最高のものにするため尽力してくれた。また、勇敢にもこの旅に同行してくれた共同プロデューサーにも大変感謝している。

 そしてミュンヘン映画テレビ学校時代の恩師であるヴィム・ヴェンダースも、快くこの旅に同行してくれた。彼の寛大な支援に対する感謝の気持ちを忘れることはないだろう。

 『ラスト・タンゴ』がYIDFFで上映されることをとても嬉しく思う。もう何年も前のことになるが、両親を題材にした卒業制作の『不在の心象』(1998、YIDFF '99)を出品した、思い出の場所だからだ。私たちは人生をまっすぐな線のように考えがちであるが、実際はこうして、思っているよりも頻繁に円を描いて、元の場所に戻ってくる……。それは多くの点で、タンゴととてもよく似ている。


- ヘルマン・クラル

ブエノスアイレス生まれ。1991年、ミュンヘン映画テレビ学校で学ぶためドイツに渡る。現在は両都市に拠点を置く。監督作『不在の心象』(1998)はYIDFF '99で上映され、ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)を受賞。自身の監督作で、エグゼクティブ・プロデューサーにヴィム・ヴェンダースを迎えた『ミュージック・クバーナ』(2004、YIDFF 2005)は、ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映された後、全世界で公開された。