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ラテンアメリカ――人々とその時間:記憶、情熱、労働と人生


1. 社会変革とドキュメンタリー 1960−80年代

2. チリ大学映画実験所 1960−70年代

3. インディヘナの人々と

4. 灼熱のさきへ

5. 記憶を綴る

6. 国境をこえて、ハバナ国際映画TV学校より


光の坩堝(るつぼ)、または燃えたぎる光

 1960年代に「第三の映画/サード・シネマ」と呼ばれる新しい映画のかたちが模索され、伝説的な作家を輩出したラテンアメリカ。その背景には、コロンブスによる「発見」以来大陸に渦巻いてきた、ラテンアメリカの苦悩と長きにわたる抵抗運動の流れがある。それは、ラテンアメリカに留まらない20世紀に「第三世界」と呼ばれた(もはや「第三世界」という枠組みは無効なものとされているかもしれないが)アジア、アフリカ、ラテンアメリカにも通底している。

 1967年、チリのビニャ・デル・マール映画祭で開かれた最初のラテンアメリカ映画作家会議で、ラテンアメリカ映画人が一堂に会した。そこで、アルゼンチンのフェルナンド・ソラナス、オクタビオ・ヘティノ、ヘラルド・バシェホによって結成された「グルーポ・シネ・リベラシオン(解放映画グループ)」が制作した『燃えたぎる時』(『灼熱の時』『坩堝の時』の邦題もあり)(1968)は、翌年、ベネズエラのメリダで開催された第1回ラテンアメリカ・ドキュメンタリー映画祭で数々の「第三の映画/サード・シネマ」と一緒に上映された。本特集でも上映するコロンビアのマルタ・ロドリゲスも、その当時の熱狂を体験している。キューバ革命や南ベトナム解放戦線に代表される反植民地運動の時代の流れに、映画作家たちも合流していた。

 ソラナスたちは、『燃えたぎる時』完成後に執筆した「第三世界の映画に向って」というステイトメント*(ラテンアメリカ特集カタログに全文和訳再録を付録)で、当時の世界状況や映画状況を分析し、革命の可能性に貢献する映画の肯定的な例として、YIDFF 2003特集で取り上げたアメリカのニューズ・リール運動や日本で作られた学生運動の映画(小川プロダクション作品)らにも言及している。「第三の映画/サード・シネマ」の概念を共有することとなった、グルーポ・シネ・リベラシオン、シネマ・ノーヴォ、キューバの革命映画、ボリビアのウカマウ集団らの試みは「新ラテンアメリカ映画」の興隆に貢献した。

 本特集では、これまでほとんど日本で上映されてこなかったラテンアメリカ最南端のアルゼンチン、チリの1960−80年代の作品に重点を置きつつ、2000年以降の近作を含め、コロンビア、メキシコ、ブラジル、キューバ、ウルグアイ、パナマ作品を6つのパートで構成した。60年代に巻き起こった灼熱を目撃し、記憶を掘り/彫り紡いでいく現代と対峙させ、そこで生じる共振にそっと眼と耳を凝らしていただければ幸いである。国境や島境のみならず時空を超えてラテンアメリカから放たれる眩い光が、多彩な色をかたち作り、いまここにある世界を鮮明に映しだすだろう。

プログラム・コーディネーター:濱治佳(原文執筆)、小林みずほ

* 「第三世界の映画に向って」『映画批評』一月号・二月号フェルナンド・ソラナス、オクタビオ・ヘティノ新泉社1973年