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YIDFF 2015 インターナショナル・コンペティション
ラスト・タンゴ
ヘルマン・クラル 監督インタビュー

タンゴという踊りの物語


Q: 本作がラブストーリーを主軸とした経緯を教えてください。

GK: この映画を撮ろうと思ったのは、ヴィム・ヴェンダースの『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011)という映画を観たことがきっかけです。初めは、ブエノスアイレスのタンゴダンサーの映画を作りたいと考えていました。そんななか、マリア・ニエベス・レゴとホアン・カルロス・コペスはどうかという話が出たんです。アルゼンチン国内で有名すぎるダンサーである2人を、フォーカスするのには躊躇がありました。しかし、実際にマリアと会うと、チャーミングで知性があり、その人間性に引き込まれたんです。その後、ホアンの書いた本を読んで、マリアとホアンの、困難でありながらも強固な関係についても興味を持ちました。そこで、彼らのラブストーリーをメインにした映画にしようと考えたんです。

Q: 作品内で2人が共演するのは、冒頭と最後のシーンだけでしたが、共演させるのは大変だったのではないですか?

GK: 2人を共演させるのは、本当に大変でした。プロジェクトがスタートしたとき、2人とも出演するのは承諾してくれましたが、一緒に出ないというのがひとつの条件だったんです。私は、別々に撮っても、編集で2人が一緒にいるようにみせられるから大丈夫だと思っていました。しかし、しばらくしてホアンが出たくないと言ってきたんです。その時は、プロジェクトを止めるわけにもいかないので、マリアを撮影することからはじめました。数カ月の撮影を終え編集をしている時に、ホアンの奥様から連絡があったんです。事情を説明すると、ホアンと話してみてくれることになりました。しばらくして、ホアンが出てくれることになり、ホアンの撮影も行いました。その後、最初と最後のシーンで2人が一緒に出て、離れるシーンが実現したんです。

Q: 再現シーンが多くあると思いますが、それは当初から構想に入っていたのですか?

GK: 当初から、他のダンサーが2人の過去のシーンを演じるというか……マリアとホアンの人生を踊る、というのは考えていました。マリアとホアンが、自分の人生を踊っているダンサーと会話をする、というのもアイデアの段階で持っていました。マリアとホアンは、アルゼンチンのタンゴダンサーのなかでも有名だから、きちんと伝えたいと思いました。でも実際には、2人が組めないという事情もあるため、若いダンサーに再現してもらうことにしたんです。しかも今回、関わってくれたダンサーや振付師は、マリアとホアンという最も素晴らしいタンゴダンサーを演じ表現する人々として相応しい、世界的にみても本当に最高の人たちばかりでした。

Q: 再現シーンには、マリアを釣り上げるなど、単なる再現ではない場面が多々ありますが、そこにはどういうメッセージが込められているのでしょうか。

GK: 私たちにとって、最も重要だったのは、マリアとホアンの物語を伝えるということです。メッセージを伝えるという意識はなく、何がストーリーを伝えるうえでベストか、という観点が重要でした。ただ、マリアとホアンのラブストーリーに私が動かされたから、それを映画で伝えたかったのです。しかも、観客の気持ちを動かして、エンターテイメントとして成り立つ、楽しんでもらえるやり方で伝えたかった。タンゴという踊りのもつ美しさを劇場のスクリーンに見せたかった。それだけです。

(採録・構成:田中峰正)

インタビュアー:田中峰正、稲垣晴夏/通訳:吉田都
写真撮影:鈴木規子/ビデオ撮影:川島翔一朗/2015-10-10