審査員
グスタボ・フォンタン
●審査員のことば
日本に行くのは今回が初めてです。境界(ボーダー)を拡げるということ。今度の旅を思うときにこの言葉が心をよぎります。山形の町、著名なドキュメンタリー映画祭、コンペティションの審査を担うためのご招待……。
これらが私にとって、常日頃、関心を持っていた国と文化への入口となることでしょう。ですからこの機会をいただき、またプログラムの中で『顔』、『樹』という私の映画を上映していただけることをとても感謝しています。
山形のような映画祭の審査員であることは私にとって喜びですが、それには様々な理由があります。最も大きな理由は、上映されるドキュメンタリー映画が、現代において支配的な一定の形式から離れ、世界と人間に対するリアルな視点を提起する監督の探求心を、常に反映しているからです。そうであれば、映画祭のプログラムを手がかりに、ドキュメンタリーとして伝統的に理解されているものについて問うてみることに、私は非常に心惹かれます。監督として、そのことは私のこれまでの仕事を通した中心的な関心事だからです。
境界(ボーダー)を拡げるということ。この言葉は山形のような映画祭が提起しているドキュメンタリー映画の概念を思う時にも、はたと思い出されます。
そうしたことが起これば、私はあらゆる意味で幸せを感じることでしょう。
1960年ブエノスアイレス生まれ。ブエノスアイレス大学哲学文学部卒業後、国立映画制作実験センターで演出を学び、現在は、ロマス・デ・サモラ国立大学社会科学部とラプラタ国立大学で教鞭を執る。映画制作の傍ら舞台演出も手がけ、さらに短編小説集をこれまでに2冊出版している。詩作品や短編小説は各種新聞、文芸誌でも発表され、2008年には最新短編集『Pasto del Fuego』を刊行するきっかけともなったマセドニオ・フェルナンデス賞を受賞。アルゼンチンの公共放送であるTVプブリカ制作の歴史ドキュメンタリー・シリーズ『Huellas de un siglo(世紀の指紋)』では、「La semana trágica」「El 17 de octubre」「El Cordobazo y otros azos」「Madres la primera ronda」などの回の演出を担当している。主な監督作品に『樹』(2006)、 『底の見えない川』(2008)、『Elegía de abril』(2010)、『ラ・カサ/家』(2012)などがある。本作はブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭で監督賞を受賞した。
顔
The FaceEl rostro
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アルゼンチン/2013/ダイアローグなし/ モノクロ/DCP/64分
監督、脚本:グスタボ・フォンタン
撮影(16mm):ルイス・カマラ
撮影(スーパー8mm):グスタボ・スキアフィーノ
編集:マリオ・ボキキオ
録音:アベル・トルトレリ
出演:グスタボ・ヘンネケンス、マリア・デル・ウエルト・ギジィ、エクトル・マルドナード、ペドロ・ガバス
エグゼクティブ・プロデューサー: ギジェルモ・ピレネス
製作会社:Insomnia Films, Tercera Orilla
提供:Insomnia Films www.insomniafilms.com.ar
アルゼンチン、ブラジル、パラグアイの国境を流れるパラナ川。ひとりの男が小舟を漕いで小さな島に辿り着く。かつて家があり小さな村だったその場所も、いまは何もない。川辺で火を起こし、食事の支度をはじめた男。やがて、男の妻、父、友人、子どもたちといった彼の愛する人々も島に到着し、一堂に会する。一切の言葉を排し、8ミリと16ミリ撮影が混在するなか、時空を行き交うモノクロ世界が喚起するイメージと詩。そこに潜むものを川の音が手繰り寄せ、また彼方へと放たれる予感として迫ってくる。