アジア千波万波 |
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アジア千波万波 特別招待作品 審査員 |
ある詩人の死
Death of the PoetŞairişi Ğura
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トルコ/2009/ラズ語、ロシア語/カラー/ビデオ/18分
監督:エリフ・エルゲゼン
助監督:アスル・エルテュルク、ヒジュラン・ヤヴズ
撮影:ヨルダンヌ・シュズヌー
撮影助手:ギュルカン・オズカン
録音:メフメト・クルチエル
音響:ヌルクト・オズデミル
調査:イスマイル・アヴジュ・ブジャクリシ
提供:エリフ・エルゲゼン
ロシア、グルジア、トルコの境界を漂流し続けたラズ語の詩人、故ハサン・ヘリミシ。幼い頃、家族の元を去った父の証しである、ラズ語の肉声録音と写真、絵、詩の言葉の間を縫いながら、娘のナリマはロシア語で父との空白の記憶をたどる。グルジアとトルコをまたぐ地帯、サルピに立ち、父が感じていた風、匂い、風景の中に身を沈めると、その面影が浮かび上がってくる。娘の父への想いが父の声と呼応し、記憶を紡ぎ出す映像詩。
【監督のことば】 私はラズ人だ! ラズ語は、グルジアのアジャリア地区、およびトルコ北東部で話されている。残念なことに、今では一般的に使われている言語ではなく、消滅の危機に瀕している。現在、ラズ人の若者たちのほとんどは、自分たちの言語を話さない。だから私には、ラズ語で書かれた父親の詩が理解できないナリマの欠落感が理解できる。死んだ父親を、よみがえらせることはできないし、今更母国語を習得することもできない。だから、その言語で笑うことも泣くこともできないのだ。そこで私は自分自身に問いかけた。詩人の他に、言語の美しさと、その消滅をうまく描写できる者がいるだろうか? 私は、ラズ語とその文化を存続させようと尽力したハサン・ヘリミシの生涯と、彼自身が詩を朗読したテープに導かれ、ラズ語で映画を作ることを決めた。
撮影時期は、偶然にもロシア・グルジア間の紛争と重なった。リベラルで、アメリカを後ろ盾とする国グルジアでは、貧困と、消費癖がとどまるところを知らない……。私は、ソビエト時代に育ったナリマの中に、過去と現在のコントラストをはっきりと感じた。彼女は、父親とそして更には共産主義によっておき去られた孤児だったのだ。「私は、誰にも頼らない」という彼女の言葉が、その孤独を物語っているように思う。この映画の中で、共産党員だった父親と、ソビエト崩壊後の新たな人間のモデルの典型例を出会わせたかった。私にはナリマの怒り、孤独、悲しみが分かるし、父親である詩人が歌から得た幸福感、そして彼が困難な道を歩んでまでも愛した自由も理解できる。
エリフ・エルゲゼン イスタンブールのガラタサライ大学コミュニケーション学科卒。2005年には、パリ第1大学(パンテオン・ソルボンヌ)にて、映画の修士号を取得。2002年、フランスで短編映画『Unconsciously』を、2004年にはドキュメンタリー『Yesterday, Elsewhere』を、2006年には、もう1本の短編映画『Departure』を完成させる。『ある詩人の死』は、2009年にトルコで完成された。 |