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アジア千波万波



アジア千波万波 特別招待作品

アジア千波万波 審査員
シャブナム・ヴィルマニ
大木裕之

共催:独立行政法人 国際交流基金


さあ、(スリリングな)旅を始めよう。

 アジアの作家たちの「場所」への想い――それは時には愛おしさであり、喪失感であり、郷愁でもある――がつまった、そこに生きる個々人の歴史と記憶を映画にする試み。記憶が映画と切り離せないものだとすれば、場所というのは、記憶という意味も含めてアジアのドキュメンタリーの根っこなのだと強く思わされた。今ある場所、今はない空間、時空を超えた場所……。そういったアジアの作品の中からは、監督の想いにのって、場所の感触は、見ている者へと浸食し、宇宙が広がる。製作国や出身国というような枠組みから抜け出し、アジア千波万波の旅が始まる。

 今年もまた映画祭への応募作品を観続ける長い旅は、作品との新しい出会いの連続であり、作品を通じてその人生の一端に関わる体験だ。応募された作品にはそれぞれが歩いて来た千波万波の道があり、まだ歩いている途中かもしれない。ひとつの作品を作るという作業は、自身と向き合わざるを得ない孤独な冒険であると同時に、作家が社会と関わっていくひとつの大きな世界でもある。

 それにしても、最近のアジアの監督は、忙しい! 映画祭への参加、企画、次回作の制作……まるでジャグラーのようだ。多くの映画祭や、テレビ局が主催する企画をプレゼンテーションするためのピッチやマーケットは、製作資金を得るために重要だが、作品をつくり続けるためには自転車操業的な制作をせざるを得ないという状況に緩やかながら拍車をかけるのかもしれない。小型カメラやデジタル編集が定着し、システム化されやすいドキュメンタリー制作に抗う制作者の模索は続く。

 そのような状況で作品をつくり続けて行く制作者の方々には頭が下がる思いだ。応募して下さった作り手の皆さんに感謝します。観客たち、作家たち、山形で出会ってしまったそれぞれが、更なる宇宙へ旅立たんことを。私たちは、映画を見ることで、ひとつの旅を経験するのかもしれない。また終わる頃には、新たな旅の始まりの予感を感じながら。

若井真木子