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YIDFF 2009 アジア千波万波
ある詩人の死
エリフ・エルゲゼン 監督インタビュー

消えていく言葉、受け継ぎたい想い


Q: ラズ人であるハサン・ヘリミシさんは、同じラズ人である監督にとって、どのように感じられましたか?

EE: 私は、ハサン・ヘリミシの詩や歌が、ラズ語によって彼自身の声で録音されたカセットテープをはじめて聞いた時、本当にすごいと思いました。彼は、自分の気持ちや心、作品を残す方法を見つけて、それを実行に移し、自分の死後も残るようにしました。その事実自体がすばらしいと思います。ハサン・ヘリミシが亡くなってしまっても、彼の思いや考えを受け継いでいかなければならないと思いました。

Q: 娘のナリマさんは、父親の話す言語は理解できませんが、父親であるハサン・ヘリミシさんの、いつでも前向きでどんな人生でも後悔はない、といった姿勢や考え方を、理解できていると思いますか?

EE: いいえ。彼女は自分の父親のことは、なにも分かっていませんでした。けれども人が、詩人である父のことを知っているということが、しだいに彼女の生きる糧になっていったのだと気がつきました。ただ「どんな時でも、なにがあっても世の中はよくなる」と信じていた父の生き方のようには、生きていませんでした。ナリマは生きているのだけれども、どちらかといえば、お父さんに生かされている、ということが徐々に分かってきました。しかし、彼女はお父さんに言いたいことがたくさんあったにも関わらず、すでに亡くなってしまった父のことを理解することも、父に言いたいことを伝えることもできないのです。

 このふたりの場合は手遅れになってしまったけれど、映画を観ている人たち、あるいは今生きている人たちは、まだ間に合うのです。観客には、ナリマやハサン・ヘリミシと自分とを置き換えて考え、それぞれ自分自身に問うてほしいのです。もし、親子が離ればなれになってしまったら。もし、言葉が通じないという障害があったなら。自分がそういう状態になったらどうすればいいのか、また今現在、そういった状態になっているのなら、どうすればいいのか、自分自身に問うてほしいのです。

Q: ラズ語のように、世界では消えつつある言語がある一方で、英語のように言語を統一してしまおうという流れがあるように思えますが、監督はこの流れをどう思いますか?

EE: 母国語を消して、共通言語に統一しようとする自由主義の波は、今の世界にとって危険だと思います。それは言語だけでなく、文化やライフスタイルなども同じです。母国語があるということは、とてもすばらしいことです。母国語があるというということは、自分たちの文化を自分たちの言葉で、語ることができるということなのです。だから私は、ドキュメンタリー映画をつくり続けようと思います。それによって、自分の母国語だけではなく、様々な文化や言葉が残っていけたらいいと思いました。

Q: 共通言語があることは、たとえ知らない人同士でも、お互いを理解するために、便利だと思いませんか?

EE: 今回の、山形国際ドキュメンタリー映画祭でも、言葉が通じない人同士で、この映画祭についておおいに話し合うことができました。また、私の作品についても、多くの国の人から感想を聞くことができました。言葉自体が問題なのではなく、お互いに相手を理解したいと思っているかどうかが大切なのだ、ということを確信しました。

(採録・構成:飯田有佳子)

インタビュアー:飯田有佳子、木室志穂/通訳:新居由香
写真撮影:伊藤歩/ビデオ撮影:伊藤歩/2009-10-10