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アジア千波万波 [台湾]

指月記

Nail

- 台湾/2002/言語なし/モノクロ/35mm(1:1.33)/45分

監督、撮影:黄庭輔(ホァン・ティンフー)
編集:張淑娃(チャン・シューワー)
録音:曹源峰(ツァウ・ユェンフォン)
音楽:廖銘和(リァオ・ミンホー)
製作、提供:陳麗玉(チェン・リーユィ)
Chen Liyu
100 F4, No. 7 Ching-Tao East Rd. Taipei TAIWAN
Phone: 886-2-23924243
Fax: 886-2-23068280
E-mail: liyu8888@ms23.hinet.net

台北の雑踏のただ中に建つ龍山寺。境内には様々な人々が集まる。占い札を投げ一心に祈る中年女性、座り込んで居眠りする老人、乞食や花売り、カメラを構える観光客。1年間かけて撮りためたモノクロの印象的なスナップを連ね、猥雑と静謐の複合的な空間を、独自の実験的手法で捉え直す。指月とは経典を意味し、禅家が愛用している不立文字を解く言葉だというが、占い札の形、爪の付け根の三日月形をも思わせる。



【監督のことば】2001年初め、私は、暗く混沌とした地域にある龍山寺を訪れた。近代的で清潔な地下鉄の駅から一歩外に出ると、そこは、占い師や食べ物の屋台や中年の娼婦や骨董商がびっしりと並んだ康定路。ここは労働者階級(プロレタリアート)のための遊び場だ。安っぽいがおいしい食べ物と一口のご飯、一服のたばこ、一本の酒、多少のセックスといった人間の単純で根元的欲求しか存在しない場所。寺の隅には、年老いた人々が静かに座り、居眠りしたり、ぶつぶつ言ったり、あるいはただぼーっとしたりしている。彼らひとりひとりの姿は、時から削り出され、人生の結末へと歩をすすめる彫像のように見える。ここで目にするものは、すべて私の心を感動でゆさぶり、細かいところまで記録したいと願わせる。私は彼らのように時に対峙することができない。心配と不安にかられ、「何もしない」ではいられなくなる。さあ、時間のことなど忘れよう、限られたスペースの中で浪費してしまえ!

 この映画は2001年2月24日に始まる。人のあふれる小さな寺は、美しくもなければ有名でもない。なぜ彼らは慰安を求めて毎日やって来ては何もせず、そして家に帰って行くのか? 彼らにとってこの寺の魅力は何か? そして、自分の映画で何を撮ることができるだろう? 私は200m2ほどの寺の空間の中にとどまり、1年かけて撮影し、次の半年を編集に費やした。

 完成した映画を見直して、ふと胸をつかれたのは、いかに人々が危険を感じ、不安になっているかということだった。これは現代台湾の状況の特殊性によるのだろうか? 私の本来の意図は、台湾固有の状況を越えて、人類に共通する運命を記録することだった。しかし、もしかしたら、私たち自身が自覚しないままに、安全ではなく不安と感じるこの気持ちは、特定の国の特別な状況下でしか見られない感情だろうか?


- 黄庭輔(ホァン・ティンフー)

1961年生まれ。1989年に国立台湾藝術學院を卒業。現在、国家電影資料館に勤務。1989年に『鏡子』が金穂賞を受賞。その他の作品に『515檔案』(1988)、『碗』(1990)、『結婚照』(1992)、『台湾魔朶』(2000)、YIDFF 2001で上映された『03:04』(2000)などがある。


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