english
アジア千波万波

アジア千波万波 審査員
河瀬直美


●審査員の言葉

 初めて山形を訪れたとき、そこに吹く風の豊かさに魅了された。町のあちらこちらでダイアモンドの原石のような今まさに輝きだそうとする作品の数々が上映され、その作り手が過去と未来を結ぶべく、その「時」、そして「今」を生きている姿が見受けられた。アジアの、世界の、作り手が自らの強い意志とともに完成させた映画が一堂に会す。そうだ、ここが拠点なんだ。熱く衝撃的な作品に出逢う毎日の中で過ぎていった映画祭。そして、映画祭を終えた町には彼らの姿はもうなく、映画は巣立っていった。が、そこには、ここから先に広がる無限の可能性が充満している……その街角に立って込み上げた想いはなんだったのだろう。

 わたしたちの生きている地平には数々のドラマがあって、そのある一部を「切り取る」作業が映画なのかと、勘違いしていた。作り手は、その生きたドラマの「実」を自らのまなざしで見てきているはずだ。それは映画で見せられる容量をはるかに越えているだろう。ならば、映画はその「実」のなにを「切り捨てる」のかという作業が重要なのではないだろうか。つまりカメラの目が現実のいづれを救い撮ったのかということを見ながら、ほんとうのところなにを切り捨てたのかということを考えるとき、その作品の真実が見えるような気がする。

 山形の街角で込み上げた想い……それは、切り捨てられた「実」の粒子が私を覆ったのかもしれない。豊かな風とともにやってくる命の粒子を今年も期待しています。


河瀬直美

1969年、奈良市生まれ。1989年大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)映画科卒業。YIDFF '95「アジア百花繚乱」で上映された 自主映画『につつまれて』(1992)はFIPRESCI特別賞を、『かたつもり』(1994)がアジア・プログラムの奨励賞を受賞。『萌の朱雀』(1996)では、カンヌ国際映画祭カメラド−ル(新人監督賞)史上最年少受賞を果たす。『杣人物語』(1997、YIDFF '97上映)、『火垂(ほたる)』(2000)、『きゃからばあ』(2001)など、作品のほとんどが国際映画祭にて上映、受賞歴は多数。2000年ニヨン国際映画祭、2002年インフィニティ映画祭とパリ市立美術館主催ジュ・ド・ポームナショナルギャラリーでレトロスペクティブも企画された。著作に小説『萌の朱雀』『火垂』(共に幻冬舎)。CFやミュージック・クリップの演出も手がける。2003年には『沙羅双樹』がカンヌのコンペティション部門で上映、日本でも公開され話題をよんだ。


追臆のダンス

Letter from a Yellow Cherry Blossom

日本/2002/日本語/カラー/ビデオ/65分

監督、撮影、編集:河瀬直美 
編集:安楽正太郎、河瀬直美 
出演:西井一夫、西井千鶴子
製作:ビジュアルア−ツ専門学校、遷都、組画
提供:遷都
〒110-0004 東京都台東区下谷2-14-2 3階
Phone: 81-3-5824-1127 Fax: 81-3-5824-1128
E-mail: noirmam@sepia.ocn.ne.jp

日本の写真界を牽引してきた写真評論家、西井一夫の最期の日々。余命幾ばくもない西井本人から撮影を求められた河瀬監督は、動揺しつつも翌日から西井のもとに通い出す。ビデオカメラを回しながら問いかける監督、それに必死に答える西井。そして西井自らもスチールカメラを手に、撮影する河監督にシャッターを切る。撮影対象と作り手の交歓は、これからも息づき続ける“共に生きた記憶”を紡ぎ出す。



アジア千波万波砂と水 | 一緒の時 | 350元の子 | ホームシック | 円のカド | 迷路 | あなたはどこ? | ニュー(改良版)デリー | 予言の夜 | 150秒前 | 人生のバラード | ノアの方舟 | ハーラの老人 | 蒲公英的歳月(たんぽぽのさいげつ) | ヒバクシャ ― 世界の終わりに | 3rd Vol.2 ― 2つの光の家 | それから | 塵に埋もれて | 家族プロジェクト:父の家 | エディット | ジーナのビデオ日記 | オルド | 彼女と彼、ヴァン・レオ | ビッグ・ドリアン | 永遠回帰 | デブリ | 雑菜記 | 指月記 | 霧鹿村のリズム | ショート・ジャーニー審査員キム・ドンウォン | 河瀬直美アジア千波万波スペシャルPart 1 | Part 2