アジア千波万波
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当映画祭のアジア・プログラムが始まってから12年。「ひとまわり」したアジア社会は大きく変貌をとげ、アジアの新進映像作家の作品を紹介するこの部門も、作品数・紹介される地域数・テーマやスタイルの多様性だけ見ても大きく広がりを見せてきた。いつもの会場、映画館ミューズを訪れる観客の増加とともに、運営する側もおかげさまで少しずつ成長してきた。
かつてはテレックスやファックスを使っていた通信事務が電子メールに移り、写真も瞬時にやり取りできるようになった。同時通訳者の咳払いのひとつひとつをイヤホンで聞きながら見ていた映画を、今ではプロが作った日英の字幕つきで鑑賞できるようになった。カラー作品のはずなのに、なぜかモノクロしか映らない!といった悲劇も今では笑い話だ。
ところで変わらないことは何か。小川紳介賞などの賞が設定された今も、「アジア千波万波」は優れた作品が競い合うコンペティションではなく、あくまでもアジアの多様な映像表現の広がりを紹介する未知との遭遇の場であることだ。映像を作る人も見るだけの人も、女性も男性も、日本人も日本人でない人も、嗅覚を働かせて入った上映会場で、作り手との質疑応答で、待ち時間のロビーで、ゆるやかで開かれた映画と人の出会いの場所を見つけられるのが、アジア・プログラムではないかと思う。
なるべく多くの作り手たちに参加してもらい、ドキュメンタリーを作る人を祝福する、ドキュメンタリーを見る人を祝福する。日常生活から離れたひと時に、世界のあり様や映画づくりに対する好奇心を大らかに触発される場として「アジア千波万波」が今年もザッパーン!(currents=波の音)、ビリビリ(current=電流の刺激)と皆様のツボに効いてくれることを願っています。
企画・運営にあたり、多くの方にお世話になりました。深くお礼申し上げます。
藤岡朝子