審査員
高嶺剛
●審査員の言葉
映画をつくっていて何が面白いかというと、人や風景など、映画が出会うことができる魅力ある事柄を、自分なりに咀嚼して、それがスクリーンの新たな現実となって、観客と共有できる時である。まあ、いつもそうとは限らないが……。私は私が思っていることを一方的に予定調和的に伝えることが、作家の主体的なやり方とは思わない。もちろん、このような映画をつくりたいという内容をかかえて挑むが、映画をつくっていく各作業の中で関わっていくその人ならではの生きている様子や、その土地の風景が醸し出す固有な匂いから影響を受けたいと思っている。
しかし実際のほとんどの撮影はできないことの確認の日々だ。私が、シナリオから発想されたはずのイメージ画に夢中になり、理想とするイメージがいつのまにかひとり歩きしてシナリオ離れしたせいなのか。空想のやり過ぎのツケなのか。わからん。
私は映画で野心に溢れたなにかをしたいと思っているわけではない。映画のはだざわりの恍惚感を実感したいし、観客にもそのようなことを望んでいる。私は気難しい者ではない。年齢の割には白髪の多い、映画をつくる小柄な男だ。願わくば、映画のマブイ(魂)に取り憑かれんことを。
高嶺剛
1948年、沖縄石垣島川平生まれ。高校卒業まで那覇で過ごしたあと、国費留学生として京都教育大学に入学。その頃から8mm映画を撮り始める。1974年日本復帰前後の沖縄の風景を凝視した『オキナワン ドリーム ショー』でデビュー。その後も一貫して沖縄を撮り続ける。『パラダイスビュー』(1985)は初の劇映画。『ウンタマギルー』でベルリン国際映画祭カリガリ賞など内外で多数受賞。その他、『夢幻琉球・つるヘンリー』(1998)、1996年のジョナス・メカス来沖がきっかけとなり生まれた『私的撮夢幻琉球 J・M』(1996〜)など。現在、専門学校や大学にて非常勤講師をしながら、劇映画『変魚路』を準備中。本映画祭の「沖縄特集」でも「高嶺剛の世界」を取り上げる。 |
ウンタマギルー
Untamagiru-
日本/1989/沖縄語、日本語、英語/カラー/35mm/120分/日本語・英語字幕版
監督、脚本:高嶺剛
撮影:田村正毅
編集:吉田博
録音:川嶋一義
音楽:上野耕路
製作総指揮:増田通二 製作:山田晶義
プロデューサー:伊東準一、針生夏樹
出演:小林薫、戸川純、青山知可子、間好子、平良進、照屋林助、宮里栄弘、平良トミ
製作会社、提供:パルコ
沖縄という場から立ち上ってくるファンタジーと多声的な物語の可能性を開いた高嶺剛の代表作。本土復帰直前の沖縄を舞台に、豚の化身マレーとの交情を果たした主人公のギルーと、マレーをニライカナイの使者のために慈しみ大切に育てる西原親方との確執を軸に、夢と現実、現世と他界、人間と妖精などがまぐわい、絡まり合う。夢を盗み/盗まれる物語の円環によって、沖縄が潜ろうとする時代と夢の在り処を探り当てた。
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