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[フィリピン]

ここではないどこか

Nowhere Near

フィリピン/2023/英語、タガログ語/カラー/DCP/96分

- 監督、脚本、撮影、編集、録音、ナレーション:ミコ・レベレザ
録音:ケヴィン・T・アレン
音楽:ヴィンセント・ユエン・ルイズ
製作:シリーン・セノ
製作会社:Los Otros
配給:Department of Stateless Images

オバマ政権時の政策で、ロサンゼルスに住む「不法移民」状態にケリがつくはずだった。こうなった経緯をさかのぼるように、祖母の故郷の記憶から、フィリピンの先祖の土地を探し、手書きされた家族のファミリーツリーを再構築する。時にウィットを効かせた心情の語りによって、極私的な、あるアメリカの日常風景がカメラの前に姿を現す。祖母と訪れたルソン島のかろうじて残された先祖の遺物には、スペイン、アメリカ、日本、そして再びアメリカに占領された痕跡が重なる。母にインタ ビューを試みた時のこと、アメリカの、フィリピンの、その先に向かうロード・ムービー。(WM)



【監督のことば】滞在許可証ドキュメントのないドキュメンタリー映画作家はいかにして自らを立証=記録ドキュメントするか?

 この問いは合衆国で良識ある移民政策改革を待ち望んでいた私と家族にとって、自分たちを観察し描写するという、ひとつの終わりなきプロジェクトとなっている。時が過ぎゆく中で、私は自分たちの思い描いたアメリカンドリームが崩れていくのを目の当たりにした。1993年8月から2019年まで、私たちは制度的かつ心理的な国境の囚われの身だった。その国境の壁は、9・11以降高くなるばかりで、身動きが取れなくなった。そして私はこの地を去った……。

 ロサンゼルスからマニラまで7000マイルの空の旅、すべてを置き去りにして飛行機に乗り込んだのだ。本作は、実感がない故郷の地に戻ったひとりの亡命者のレンズを通して描かれる詩的な回想録である。映画はまず、わが家族の呪いを調査するところから始まる。祖母の故郷である沿岸地方の地に根を張る、数世代にわたって私たちにつきまとった呪い。かつてその地方で私の祖先は、スペイン人植民者から引き継いだ土地を治めていた。そこは、最初はスペイン、次いでアメリカ、そしてその後に我々自身が互いに振るうこととなった植民地支配の暴力の残滓を、今なお帯びている土地なのだ。

 祖母はマッカーサーと米軍が地元の浜に上陸した時の話をするのが好きだ。それが先祖代々の家の玄関先で起きた出来事だと自慢する。祖母によると、米軍の宿営地は見渡す限り広がっていて、そこにはダンス場と酒場を兼ねた大きなテントがあり、絨毯が敷かれてジャズの交響楽団もいたという。祖母の姉や従姉たちは、そこへ踊りに行ったりもしていたのだ。アメリカ人が去った後にも、そこには今も朽ち果てたコンクリートの残骸が残っている。


- ミコ・レベレザ

1988年、マニラ生まれ。メキシコ・オアハカ在住の映画作家。長らく米国で不法移民として過ごし、現在は亡命者となったその生い立ちが、自身と映像との関係性を形作っている。これまでの作品としては、『ドロガ!』(2014、YIDFF 2017)、『ディスインテグレーション93−96』(2017、YIDFF 2017)、『ノー・データ・プラン』(2018、YIDFF 2019)、『Distancing』(2019)、『沈黙の情景』(2021、YIDFF 2021)がある。2018年に「フィルムメーカー・マガジン」の「インディペンデント映画のニューフェイス25人」に選出。2019年にはフラハティ・セミナー招聘作家となり、その後バード大学ミルトン・エイヴリー美術大学院で修士号を取得、2021年にはヴィルセク賞(映画制作)を受賞した。