やまがたと映画
山のあなたに想いを馳せて
山形県に関連した作品から風土や文化を再考する「やまがたと映画」。今年は、ひとりの人物――昨秋に急逝した髙橋卓也氏を追悼するプログラムを組んだ。本映画祭の設立に深くかかわり、山形事務局長を10年あまり務め、各地で自主上映会をおこない、プロデューサーとして山形を舞台に映画を作り続けた――いわば「ミスター・ドキュ山」と称すべき人物だ。そのあまりに早い旅立ちを悼みつつ、山形を、山を、映画祭を愛した氏の功績を作品で振りかえりたい。上映するのは、氏が製作と上映を支援した劇映画『わらびのこう 蕨野行』と、製作に携わったドキュメンタリー『無音の叫び声』。加えて、奇跡的に発掘された肘折温泉全編ロケ作品『雪の詩』をおよそ半世紀の時を経て上映する。いかにも氏が喜びそうな作品、生きていたらどのような感想を抱いたか、詮無いとわかりつつも考えてしまう。そういえば、山形県には古来「死者の魂は山に還る」との信仰があった。出羽三山や鳥海山、山寺の名称で知られる立石寺など魂が向かう山は県内随所に存在する。すなわち県民にとって山とは「人を悼む処」なのだ。ならば銀幕に映った〈やまがたの山〉を観るとき、私たちはもう会えないあの人を悼んでいるのかもしれない。