地の上、地の下
Above and Below the Ground- ミャンマー、アメリカ、タイ/2023/ジンポー語、ビルマ語/カラー/DCP/86分
監督:エミリー・ホン
撮影:エミリー・ホン、ディンディン、ムン、ザウリン
編集:ソフィー・ブリュネ、アーチャリー・ウンシリウォン、ルールア・クーリ
音響:アーンスト・カレル
音楽:BLAST
作曲:マーティン・クレイン
アニメーション、イラスト:ペイス・フォード
インパクト・チーム:ステラノー、ニンリーコン、ジーサン、ツァジー
製作:マギー・ルミーア、ジャーナンツェン、エミリー・ホン
提供:Rhiza Collective
ミャンマー北部カチン州のミッソンダム建設により、エーヤワディー川が育む豊かな大地、そこに住む人々の故郷が奪われようとしている。長年声をあげ続けるルラは、農業を営む傍ら、さまざまな妨害にあいながらも反対デモや集会を組織する。若い活動家の卵、コンマイは、戦う術として法律を学び、地域に根ざした活動を始める。牧師さんがメンバーのパンクロックバンド「BLAST」は、ダム建設や翡翠採掘による環境破壊をMVで訴え、広く世に知らしめる。映画は川の過去から未来へと旅をしながら、彼らの連帯とアイデンティティを守る長い戦いをゆるやかに描く。(WM)
【監督のことば】社会的・環境的正義のための長期にわたる運動において、音楽は人々を鼓舞し、精神に滋養を与え、連携関係を構築する大きなカギとなりうる。音楽を原動力とする私の学生アクティヴィストとしての魂に火をつけ、15年前に初めてタイ−ミャンマー国境へと赴くきっかけとなったのは2007年のサフラン革命(ミャンマー反政府デモ)だった。私はそこで、ミャンマーの軍政支配が極まるさなかに民主主義と先住民の権利を求めて闘う亡命者や難民の活動家たちと行動をともにした。それから10年の歳月を経て、映画作家となり人類学者となった私は、本作のもととなる映像制作を開始した。ミャンマーの不安定な政治状況にあって、中国の建設するミッソンダムのもたらす環境破壊や文化棄損に目を向け、マリ川(エーヤワディー川)のあげる叫びを代弁するカラオケMVをひそかに録って流していたカチンのロックバンド、「BLAST」の存在を知ったのである。
私たちの映画は、60年におよぶ独裁が終わった後の2016〜21年、今は軍政復帰のために閉ざされてしまったその窓が開放された貴重な時期に生じた、ミャンマー初の全国的な環境運動へと内部から親密な目を向けるものである。本作はミャンマーと中国の国境地域に根を下ろしつつも、世界中で活動するアクティヴィストなら誰しも経験する力学に光をあてる。またフェミニズム映画としては、ひとりのカリスマ的指導者に焦点を絞るというよりむしろ、BLASTの言う「背後から重荷を支える」人々を描くことで、運動のリーダーシップを生態系のように理解することを目指している。
気候危機と6度目の大量絶滅に向き合うために、私たちは今とは異なる生き方や地球への関わり方を想像しなければならない。それには環境を支配するという植民者的な考えを捨て去る必要がある。本作に登場する女性指導者たちやBLASTのメンバーはまさにそうしたことをなしつつ、その一方で先人の知恵を新世代のために再構築してもいるのである。
ソウル生まれで現在はフィラデルフィアとバンコクを拠点とする映像人類学者、映画作家。植民地において人類学やドキュメンタリー映画が築いてきた遺産に、非西洋的な知や存在のありかたを尊ぶ空間を創造することで疑問を投げかけようとする作品を制作。ハバフォード大学に人類学とヴィジュアル・スタディーズを専門とする助教として在籍する一方、「Ethnocine(エスノシネ)」および「Rhiza Collectives(ライザ・コレクティブ)」を仲間とともに立ち上げ、アジア系アメリカ人ドキュメンタリー・ネットワーク運営委員会の一員としても活動する。作品は、アジア地域および米国で先住民の権利や環境的・経済的正義にフォーカスした草の根運動にファシリテーターやオーガナイザーや、活動家として関わった15年にわたる経験の上に成り立っている。